台風というほどではないが、普通の強い雨の中(だけど風は強い)自転車をこぎ始めた。100均の自転車ライトは光量が心もとない。しかし真っ暗であるからして、頼りないライトも相対的にギリギリ何とかなる感じである。
事前にこのルートをストリートビューで調べていた時は、当然明るい道なのであった。しかし今は暗い。暗いとなんとなく勘所がつかめない。さらに本当は車道側を走りたいのであるが、車が通る感じがしないがやっぱり危ないので、走りにくい歩道を選んだ。歩道というのはあちこちに段差やトラップがある。知った道であれば無理も効くが、初めての道で真っ暗、そして雨ときた。注意するのにし過ぎることないのだ。段差は本当に注意してゆっくり走る。坂は勢いをつけて走りたいところだけど、旅行先で転んでケガしてしまうのは最も避けなくてはいけない。なので、脚力に頼り歩道をゆっくり走った。アドレナリンが出ているから、走れたけど昼に走ったらとんでもない坂で、降りて引いたけど・・・
さて、ここで困ったことは、風が強すぎてレインコートのフードがすぐ脱げてしまうこと。頭がびしょびしょ。さらに台風の温風湿気と坂道でのエネルギー消費により、レインコート内は発汗、つまり濡れてびしょびしょである。でもそんなことはどうでもよい。
1キロバス通りを上ると、そこからはわき道に入る。この先分かりにくい分岐をいくつかクリアしなくてはならない。ここもストリートビューで事前に学習しておいて助かった。分岐には「ホテルこっち」みたいな看板が出ている。分岐では自転車を止め、弱弱しい100均ライトでそれを確認しながら進むのである。最後の分岐は「斎場」の横である。真っ暗で斎場の横・・・なんて恐怖だぜ。と思うが、そんなことも感じないくらい集中して自転車を進めるのだ。
この最後の分岐路より先は、ストリートビューがない道である。事前学習ができないので、何があるか分からない。もう最上の注意を払う。実はそこに着くまでも、あまりにも過酷だったり心細かったりで、結構独り言をしゃべりながらであった。「まっじー」「うっしょー」「わっ」「かんべんしてくれよ」「えっ?」「こっちでいいか」などなど。
そしてこの先は、今までとは比べ物にならない独り言を発せなければ、決して走ることができないような道なのであった。
まず何気に下りになった。下りはうれしいのであるが、数メートルしか先が見えない心細い100均ライトである。いくら下りとて、結構フルブレーキにちかいくらいブレーキレバーを握った。実は翌日ここを通って驚いたのだが、この坂、信じられないくらい急な坂だった。でもこの夜はそれほどに感じられなかったんだよね。
そして坂が弱くなったあたりから砂利道になった。心もとないライトだと路面がよくわからない。そんな時「ぎゃ!」と大声を出してしまった。そこには水たまりとは言えない、小池ぐらいな水たまりがあって、そこに勢いよく入ってしまった。当然足まで水没しながら漕ぐ。やっぱりサンダルに履き替えて正解だった。しかしよくここで転ばなかったものだ、と今でも感心するのである。
その後も砂利でわだちがある道を進むのだが、もう水たまりが恐怖で、スピードはさらに遅くなる。そして雨風の音に加えて波の音が聞こえてきた。何気に分岐のような気もしたが、もうそれどころではない。進める道を進むのが精いっぱいだ。そして「道のすぐ横がもう海」であることが疑いないような波の音が聞こえた。これは安心ではなく恐怖だった。水たまりをよけて脇に突っ込んだりしたら、もう人生おさらばである。昼間ならまだしも、明かりが何もない環境で海に落ちたら、もうひとたまりもないことは明らかだ。「マジかよー、怖い怖い怖い怖い」と独り言はもう歌のようになっている。独り言ブルース、独り言ロック、独り言バラード・・・新しいジャンルを作れるかも。
最後の分岐からは10分もたっていないが、感覚的には1時間じゃないか?と思える「今日風呂」じゃなくて「恐怖路」を過ぎたところに明かりが見えた。そして舗装した駐車場に出た。
やった!着いた!生きてる!
この日の全エネルギーを使い果たし、体力的にも精神的にもヘロヘロな状態でホテルに着いたのだった。