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■■■ 第16話【パーティー】 ■■■

 夕暮れが迫ってきた。時計を見ると5時半だ。そろそろパーティー会場に向かおう。と、てくてく歩く。予選も終わったサーキットは何だかいい雰囲気だ。みんな思い思いに明日の決勝を前にして和んでいるようだ。

 サーキットのゲートを抜け、更にメインゲートを出たところで、朝俺を迎えに来てくれたUさんが待っていた。

「佐藤さん、どうでした?パーティーはこの先の右側の建物ですから・・・」
えっ?、俺のこと分かってるの?す・すごいなぁ。すご過ぎるぞ。今日始めて会ったのよ。それも朝ちょっと会っただけよ。さすが営業さん。こんな人の洪水状態の中から、人を見分けるなんざぁ、神業だ。

こんなスーパー営業マンを抱えているロックタイトの明日は明るいぞ。

 パーティーはサーキットに併設されている「味の街」と言うレストラン街で行なわれることになっていた。入口には結婚式場の案内板のごとく、本日の打ち上げ一覧があるわあるわ。

 何だか一番奥の、一番いい会場のようだ。思っていたより規模が大きそう。そして受付に行ったらこれまたぶったまげた。こんなに立派なパーティーだったのね。女性が二人で受付をしている。一人がいつもメール配信をしてくれるSさんかな? 吸いこまれるように近づき、受付を済ませた。そして何やらいただいた。
「あっ、これお持ちください。今お渡ししていいですか?」
何だか大きな袋だぞ。すぐにでも取り出してみたい気持ちをぐっと抑えてすました顔の俺。そんな俺に女性が言った。

「あの、これ明日のパスが入っています。今日のグランドスタンドのパスいただけますか?


「???」

一瞬わけがわからなくなった。

「えっ?パス返さなければならないの?俺は明日どうなるの?」

 脳シナプスでの伝達にちょっと時間がかかったが、少しづつ分かって来た。明日の決勝はサーキットの内側、いわばパドックやピット上での観戦ができると言う事みたい。ほへぇ。きれいな紙折り箱にマクラーレンのマークが印刷されたものを渡されたのだが、ただのチーム紹介なんて物ではなかった。


「プ・プ・プ・プレミアムVIPパスだ〜正式にはパドッククラブ・パス」

 なんかすごい間抜けでびっくりして困惑した顔していただろうなぁ。そこで我に返ったのは、外人に話し掛けられたからだった。 おおっ、誰だ、誰だあんた?

 夏に伯父の葬式で会ったいとこの旦那が米国人のマイコーで、外人には少し免疫がついていたが、それでもあせったなぁ。どうもロックタイトのスタッフみたいだ。んで、やっぱ名刺交換なのね。

う〜ん、
Philip J White・・・日本ロックタイトの社長?


えっ?社長?社長さん、いやいや私を誘ってくださった社長様ですね。

 しかし、すごくフランクな社長様だぞ。形だけの挨拶を済ませて、すぐにどっかいっちゃうと思いきや、なんだかずっと話をしてくるぞ。いいんかい?俺はただのマニアック兄ちゃん(おっちゃんか?)だぞ。しかし会話は英語だ。こりゃまずい、こっちのペースでなくちゃ話わから。、と、まずは住んでるところの話に持ちこんだ。地理関係は俺の得意業だ。オーストラリア在住らしい。「オーストラリアと言えば・・・」と“シドニー”が頭に思い浮かばない。やっぱり舞い上がっていたようね。「新婚旅行はニュージーランドに行った」とか言ったら、「どこに行った?」と、詳しいのだ。しかし、社長なのにフランクなのいいよねぇ。一発でフィリップ社長の事が好きになった。俺もこうありたいものだね。といっても社長になれるわけないけど。それとも自分で会社起こして社長にでもなろうかな?



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