■TOP > Burns Red Special大改造 > 安価にいくトレモロユニット設計

■■■ トレモロ構造設計 ■■■

 Burns改造のハイライトはやはりトレモロ作成であろう。Burnsを買った人の半数以上が、シンクロナイズドトレモロであることに失望するのは明らかである。今まであれやこれやと行なってきた改造はトレモロ構造を変更するために、芋づる式に行なわなければならなかったものである。トレモロを変えるとなると、ブリッジを変える、PGを変える、PGを変えるとスイッチも変えられるので変えちゃおう等々。

 ではその本丸であるトレモロ設計を述べていこう。まず基本方針と構想、課題を立てた。なんか仕事チックで嫌だけど、まあ分かりやすくするためにしょうがない。

【トレモロ機構設計方針】ホームセンターで購入できる部品を使って安価に自作する

■■■ 初期構想 ■■■

 まずはじめに立てた構想から話をしてみよう。賢い読者はすでにお分かりと思うが、「初期」とか「はじめに立てた」とかという言葉から続くのは、これは失敗構想だったということである。しかし何事もまずたたき台がないとだめだ。いきなりまっさらな状態から、完璧なものはできないのだ。

◆トレモロ機構設計構想1 ・本物オールドレディーを限りなく模した構造
◆課題 ・ナイフエッジ再現法
・スプリングの固定方
◆対応 ・ナイフエッジ(Lアングル)をボルトアンカーに組み込み、合わせてボディーにスクリューで固定
・上記ボルトアンカー(+Lアングル)の高さ寸法に合わせて、ボディーの一部をアンダーカット
 ⇒ボルトアンカーは上下でリジットに固定され動かなくなる
・ボルトアンカーのボルト固定部分にかかるボディー部分に、ボルト干渉を避けるため穴あけ(穴径に関しては後述)
・スプリング固定法はオリジナルと同等



 まずナイフエッジをどうするか?である。本物は図1のようにボディー製作途中にボディー”内”に埋め込まれるのだ。Burnsでこの構造を再現するのはまず不可能である。別の方法を考えなくてはならない。

 ではナイフエッジの「機能」を考えよう。オリジナル形状を再現するのは断念し、機能として成立させる方向に転換だ。機能としてのナイフエッジ(プレート)の役目はめちゃくちゃシンプルである。単なる「てこの支点(支線)」である。弦からの張力(図2F1)とスプリングからの力(F2)を受け止める支点なのだ。ならば単に硬くて薄いものがそこにあればいいのである。


【図1】実際はこの上に薄板が貼られる。つまり本物は完成後にナイフエッジプレートにはアクセスしない設計だ。

【図2】過去にも登場した図が再登場だ。ナイフエッジ(X)を支点としたシーソー構造が分かる図である。


 上記からL型の金属部材をどういう方法かで、所定の位置に留める方法を考えた。当然ナイフエッジなので、それなりに薄くてしっかりとした剛性が求められる。さらにナイフエッジを支点としたときの、スプリング側を考える。このスプリングを留めるために、ボルトをどういう方法かででボディーに留めなくてはならない。本物オールドレディーのこの部分の構造は謎である。皆さんいろいろな解釈で自作されている。よく見る構造は図2のCパーツである。仮にこのC部品を「ボルトアンカー」と呼ぶ。自作の場合、ナイフエッジ機能をこのボルトアンカーにもたせるという案が、ごく自然に導き出せるだろう。

 上記ナイフエッジ+ボルトアンカー一体型パーツを金属で作ることが出来るのであれば、ことは簡単に終わってしまうが、金属加工にハードルがある自作では知恵を出さなくてはならない。以上を鑑み、まず構想したのが樹脂とアルミL型アングルのハイブリッド構造だ。

 ボルトアンカーを樹脂としたが、樹脂にタップを切ってボルト(弦テンションが全部かかる)にかかる力を受けるのは不可能と判断した。そのため、ボルトアンカーはM5のナットを埋めこむ構造とした。ボルトアンカーはトレモロチャンバーにアンダーカットを作って上下寸法をリジットに決めて、パツパツで収めたかった。アンダーカットの深さは所有バイトの制約で、max5mmとなった。さらにナットの厚みは3.8mm、ボルトアンカーの厚みは5mm、そのためナットが抜けないための壁部厚みが1.2mmという、少し心配な値になった。だめなら考えよう。


【図3】これがボルトアンカー+L型アングル。ボルトがねじ止めされる。

【図4】透過図で。ボルトアンカーのボディー側にナットが埋め込まれる。ボルトアンカーはボディーにねじ留め。


 下の図5、6がアームベースまでつけた状態のカット図である。片側のボルト部にはわざと部品を乗せない状態にした。ちなみに青いL型のパーツはアームベースの上部分だけ、アルミLアングルで質感を出そうする構想。図6で分かるが、ボルトはトレモロのテンション調整で奥にねじ込まれることがあるため、奥に逃げ穴がなくてはならない。またその穴もボルトと干渉しない径で、かつナットが落ちない径出なければいけないのである。結構シビアな寸法を要求されるのだ。


【図5】この見える面がボディーに接する面である。L型アングルとボルト締結用のナットはボルトアンカーでボディーに密着されるだろう・・・という思惑である。

【図6】これはボディーも含めたカット図。Lアングルはがちがちに固められるはず・・・




 で、いざリアルな部品で試験をしてみた。ボルトアンカーは上下フリー状態であったということもあるだろう、Lアングルがそれ単体じゃ弱すぎ、90度が開いてしまう。さらに図10では実機に組み込んでみた。ここでも上下ぎちぎちに押さえ込まれているから問題ないかと思ったが、ボルトアンカーが動いてしまった。まあねじ留めしていないので、動いてもいいといえばいいのだが・・・


【図7】ちょっと試作したボルトアンカー

【図8】簡単に実験してみた



【図9】Lアングルの曲がりが開いてしまった

【図10】ボディーにはこのようにギチギチにはめているんだけど・・・





 で、結局自分ではこの結果を「失敗」と判断した。失敗の原因は以下である。

【失敗1】ボルトアンカーがボディーにねじ止めしにくかった
【失敗2】ボルトが逃げる部分のボディー加工がしにくかった
【失敗3】ハイブリッド型ナイフエッジ(Lアングル)の信頼性が確保できなかった




【図11】大きい穴がボルトを逃げるもの、小さい穴がボルトアンカー固定用だ。

 つまり、「まあできるんじゃないの?」と安易に考えていたところが、やっぱりできなかったと言うことに尽きる。考えが甘いのだ。この狭いエリアにドリルの歯が入らない状態で、規定の場所に垂直度を確保して横穴を開ける自信がない。フレキシブルに曲がるビットホルダーなど買ってみたが、やはりチャンバー内にドリルの歯は入らない。斜めにはしたくない。

 負け犬状態で意気消沈していた。

 で、いじいじしていたら、ふと考えが浮かんだ!




■■■ 修正構想 ■■■

 上記結果を踏まえ、設計変更をすることになった。課題は以下の通り。

◆課題
・スプリング固定方法の再考
・L型ナイフエッジの固定方法の再考

 うまくいかなかったトレモロ構造に対して、意気消沈しながらも、何気に寄ったホームセンター「ロイヤル」で、あたらな出会いがあった。25mm辺で厚さ2mm、そして長さが200mmなんていう、まさに「運命の出会い」のアルミLアングルを見つけたのだった。特に25mm辺ってのが、もう涙である。これはボルトアンカーのために決めた深さと全く同じ値である。なので面倒な切り出しなんてしなくても、「ぴったり」とトレモロチャンバーのアンダーカット部に収まるのだ。またプチうれしいのは、こういうLアングルは普通900mmサイズだったりするところ、今回は200mmっていう一口サイズというか、最近の一人暮らし向けスーパー小分け素材っぽくて、非常にうれしいのだ。そしてあまりのうれしさで即切り出した。


【図12】左で切れているが、ほぼこの長さである。

【図13】万力に加えて切り出したが、私の場合どうも「切る」のが下手くそなのだ。





【図14】隙間があるように見えるが結構ギチギチに入っている。のこぎりが下手なのは見逃して!

 この切り出したLアングルのナイフエッジ部をR状にヤスり、トレモロチャンバーにはめ込んだ。そして前のように弦を張ってみると、さすがに板厚が2mmもあるってこともあって、よれる事もなく剛性ばっちり!だ。なんかいい予感がバリバリしてきた。しかし上下でぎっちり押さえ込んでいるとはいえ、弦を張ってみるとやはりまだだめだ。Lアングルの下部が物理の法則に従って動いてしまう。





 考えていたら、ふっといいアイデアが浮かんだ。アイデアって「考えて」いれば、出てくるもんなのだなぁ、とつくづく思った。さてそのアイデアを「作用点固定法」と名づけよう。この方法は、Lアングルをねじで固定する必要がないため、めちゃくちゃ簡単にLアングル(ナイフエッジ)とスプリング固定が出来るのだ。

 Lアングルの問題は、アームダウン時に若干の回転モーメントがかかってしまい、押さえられていないLアングル下部が動いてしまうことであった。ならば動かないように押さえればよろしい。図15がその構造図である。赤色の部品でLアングルを押さえて、トレモロチャンバーに内ラインに合わせたブロックに当てる。これだけだ。細かな細工などはしてあるが、これでばっちりだった。


【図15】透過表示にて。

【図16】実物にて。




 また下図17のカットモデルの緑色の部品はアームベースである。スプリングのアームベース側への当て方はオリジナルと同じだが、逆側はボルトアンカーがうまく設置できないため、オリジナル構造をあきらめた。新しい作戦は、スプリングをブロック(ボディー)に直接当ててしまう作戦である。テンション調整はスプリングを受けるオレンジ色の部品の裏に仕込んだシム(青緑)の厚さで調整しよう。こうすることで、ブロックには弦張力に相当する力がかかることになり、それがブロックなどの部品が浮き上がるのを防止するのにも役立つことになった。ちなみにスプリングは手持ち品を利用したため、4本となったが・・・


【図17】Lアングルを押さえるプレート(赤)には孔をあけて固定しようと思ったが、必要なかった。

【図18】新トレモロユニットの全体像だ。



【図19】ブロックをはめてしまえば、簡単にトレモロなし仕様に。

【図20】スプリングは4本になった。