■TOP > Burns Red Special大改造 > (新)オールドレディーのモデリングと考察(モデリングver2)

■■■ ボディー木部基本構造 ■■■

 「ブライアンのギターが欲しい」と思ったが数あるレプリカは非常に高価であって、それなら、とBurns改造に走ったのは御存じのとおりである。そしてレプリカを作るなら本物を知らなければならない、とレッドスペシャル(本物はオールドレディーと呼ばれている)の解析を始めた。その解析過程はRed Special(Old Lady)の解析史にまとめてみた。

 永遠に終わらない解析であるが、現段階の「第5次解析」をもとにした「モデリングVer3」をここでは披露しようと思う。自分の中では8割程度はあたっているのでは?と思うのだが・・・

 ● ボディー基本レイヤー構造

 当初は向かって右側のチャンバースペースや、トレモロユニットが入る半月板スペースは、開口部と同じ寸法で掘り込まれていると思っていた。しかし、X線透過写真が衝撃的であった。内部はセミアコライクに相当スカスカであった。そしてボディーアッパー側とロア側の木がネジ留めされている。びっくりだ。しかしよくよく考えると、経年変化のある接着剤を使わず、あえてネジ留めにしたというのが考えられた末の方策だとすれば、ブライアン親子恐るべしである。フライヤーさんの改修画像を合わせ判断すると、レッドスペシャル厚み方向の層構成が分かってきた。大きく分類すると以下の6層4パーツに分けられる。
トップ板(Top veneer)マホガニー突板第1層0.5mm
オークパネル第2層3mm
インナーアッパー(アッパーフレーム+アッパーコア)フレーム:ブロックボード、コア:オーク第3層15mm
インナーロア(ロアフレーム+ロアコア)フレーム:ブロックボード、コア:オーク第4層15mm
ボトム板(Top veneer)オークパネル第5層3mm
マホガニー突板第6層0.5mm



【図1】木部の基本レイヤーである。思ったより骨っぽいのが分かる。

 ボディー全体の厚さは塗装膜厚を含めるか否かでいくらでも変わりそうだが、Ver3.5では先祖返りし39mmとした。アッパー/ロアが各19.5mm、うちトップ/ボトム薄板は各3.5mm(オーク薄板3mm+マホガニー突板0.5mm)とした。

 内部ボディーの基本構造をなしているインナーアッパー/インナーロアは、今まではオークの単板かと思っていたが、実は2ピース構造のようだ。フレーム部分は「ブロックボード(いわゆる集成材)」で、ブリッジやナイフエッジなど、弦振動や力学的に応力を受ける部分のみがオーク材となっている。レッドスペシャルといういわば神格化したギターに、ブロックボードという超安価な素材が使われてることに驚きを隠しえないのであるが、これはブライアン親子が、まさにそこにある材料で作ってしまったギターなのだと、改めて思った。

 さてインナーアッパーにおけるオーク材の部分採用は、ナイフエッジを頑強に受けることと、ブリッジからの弦振動を受けることを重視した結果であろう。またインナーロアにおけるオーク材は、レッドスペシャルの大きな特徴である「ボディーに深く食い込むネック」をキチンと受ける「座」の役割をなしている。  このようにギターとして肝になる部分をオーク材としており、オークコア以外の構造部は「板」というよりむしろ「骨」のようで、トップとボトムの各板を保持するだけの役割だ。そんな部分いギターにはあるまじき「集成材(ブロックボード)」を使っているのは、この部分を重要視していない証拠である。で実際、PU下の座繰り部にブロックボードの生木が見えるがいかにも安そうな材に見える。

 さてこのあとで何度も記述することになるが、トップ板の開口部シェイプがそのままインナーアッパー/ロアに引き継がれているわけではない。つまりトップ板の下にインナーアッパーが無い部分があるのだ。いわゆる空洞・片持ち形状である。これを発見したときは、結構な驚きで心臓がバクバクした。そういう新たな発見によって謎が解明されていくのが、レッドスペシャル解析の楽しいところである。

 トップ、リア、サイド部は薄いマホガニー突板を貼って木目出しをしているようだ。サイド部は合わせ目隠しのためしょうがないが、トップ/リアは再度に貼るなら表面もね、としたのか、やっぱマホの目大好き、ってしたのかは謎である。




【図2】ボディー木部のみの透視図。




 ● インナーアッパーとインナーロアの締結

 X線写真での重要新発見のひとつに、「インナーアッパーとインナーロアが木ネジで留められいた」ことがあげられる。図に示したように11個の木ネジ(水色で表示)にて留められている。木ネジ留めでも強度は十分だろうが経時変化による緩みを考えたら、接着併用だろう。

 そして以前から不思議に思っていたこと、それがこの木ネジ留めに起因してることが分かった。形状の不自然さに理由がついたのである。それは、向かって右側チャンバー部の出っ張りである。最初はピックガードのネジ留めのための座かと思ったが、そこにネジは打たれていない。何にも使われていないここは何のために出っ張っているのか?と疑問であった。そして今回、これは木ネジ留めエリアを確保するためであることがよ〜く分かった。X線透過画像を初めて見てまず飛び上がらんばかりに驚いたのは、まさにこのネジ留めとその形状なのである。これはボディー全体で6箇所あることが判明した。

 また全体の木ネジ留めは11箇所である。テールエンド部の木ネジは本来なら中心に位置するべきであるが、シフトして留められいる。これはストラップピン用のロングスクリューを避けるためであろう。これらの分析作業を通して、何事にもその形状には意味があることがよく分かった。そしてそれは、そのときのブライアン親子の思考をたどるようでなかなか面白いのである。


【図3】水色のスクリュー11個で締結されている。

【図4】スクリュー留めの部分だけはフレームが拡大している。




 ● 右側チャンバー部形状


【図2】ボディー木部のみの透視図。

 ボディー向かって右側のチャンバー部はピックガードを取り外すと見えるため、解析はたやすいのである。当初は数少ないレッドスペシャル写真(ほとんどフライヤーさん改修時のもの)を見て、さらに「普通に考え(既成概念にとらわれたということ)右側チャンバーはトップ板の開口形状のままズドンと上から下までくりぬかれていると思っていた。

 写真から見るとこの部分は導電塗料が塗られており黒くなっている。そのために、エッジ形状が非常に分かりにくいのだ。2000年代のフェラーリF1がボディー下部形状を見破られにくくするために、わざと汚い感じに黒塗装していたのど同じである。黒はシェイプを分かりにくくするのだ。しかし256階調の1階調を読み取るべく画像を凝視しまくった結果、これは同形状で掘り込まれていない!という結果に至った。これはSWプレートなる存在を知り、その取り付け部がインナーロアだったのを見つけたからである。

 この右側チャンバー部には6本の金属ピンが立っている。これはPUからの配線を一時受ける「ラグ板」の役目を負っている。PU3個のホット/グランドで6本になる。





 ● 右側チャンバー内「表面薄板受け木片」


【図6】中央がささえ木片

 上記の通り、右側のトップ薄板は「ひさし」のような片持ち構造になっている。これは工学的にはちょっと怖い。ちょっとした衝撃で「バキッ」と割れてしまいそうだ。なので、あくまで推測であるが、後からここに「受け」と作ったのではないかと思う。つまり大雪の後、片持ちカーポーチがつぶれているところを良く見るが、その対策と同じである。すべてが計算し尽くされたレッドスペシャルのように思われているが、こういう付け焼刃的処理が随所に見られ、それが逆に「ブライアン親子も完璧じゃないよね、そりゃあワンオフで作っていけばそんなこともあるというか、無いほうがおかしいよね。」と人間身を感じさせてくれるのだ。






 ● 右側チャンバー内「スイッチプレート座」(2013.6.30追加)


【図】

 右チャンバー部は比較的早い時期から中を見ることができた場所である。そしてこの部分も「多分SWプレートの座だね、ピックガードのネジ留めスペースだね」、とそれほど考えることもなく、何となくそう思っていた。CADモデリングも一体部品として作図していた。しかし目が肥えてくると以下の2点によって、これは別パーツではないか?と思うようになった。

【理由その1】形状から
 中央島の両サイドにあるSWプレート座のボディーにつながるラインがRになっていないのだ。鋭角にボディーとつながっているように見える。この部分を加工で鋭角にするのはえらく大変であり、これは後付けパーツであると確信した。

【理由その2】アッパー/ロアコアのネジ留めから
 上でも書いたが、ここの中央島部はピックガードのネジ留め部なんかじゃなく、構造をつかさどるフレーム部のネジ留めエリアであり、両側座部分を考慮して加工をしてないのでは?という単なる推測。

 つまり、SWプレートは最初からそれほど検討して作ったわけではなく、作りながら考えたと思う。そして最初は片持ちだったSWプレートだが、右側にやはり「座」が欲しくなり、追加パーツでしのいだのではないか?と推測するがどうだろう?






 ● 左側チャンバー部形状


【図2】ボディー木部のみの透視図。

 ボディーの向かって左側のチャンバー部はトップ薄板が接着されているため永遠の謎であった。しかしX線撮影なんていうトリッキーな技を使った画像が出回ったことである程度の形状が判明した。そして左右のチャンバー形状はほぼ同形状であることが分かった。

 そして自分としてうれしかったのは・・・。X線写真に忠実にモデリングした結果、ネック側PU向かって左側ツバネジ留め部、ここがほんの少し、本当に少しだけ表面薄板を突き破るような線になった。すると左側チャンバーへの小さな孔が(空気孔のように)あくのである。そして写真をつぶさに確認したら、あっ、やっぱり孔開いてるじゃん、となった。人類が入ったことの無い洞窟に侵入するための入り口を発見したような気持ちになって、ちょっと胸が騒いだ。





 ● サイド部


【図5】薄マホガニーシートはインナーアッパー/ロア締結後に貼り付け

 ボディーサイドは内部コア材の合わせ目を隠すために、薄いマホガニー突板を貼っている。しかし木目の方向がちょっと私の感覚と合わない。Z軸(厚み)方向に木目が走っているのである・・・。まあこれでサイド部が突板であることを証明してくれたから良いといえばいいのだが・・・






 ● ボトム薄板


【図7】英語では「パッチ」を書かれていた

 最初は全く気がつかなかったが、ボトム薄板のテールストラップピン付近は半月状の別ピース?になっている。これはパネル薄板自体が別ピースなのか、マホガニー突板だけ別ピースなのかは分からないが、なぜか別ピースなのである。これは木目のが模様違い、かつ色がちょっと違っているのではっきり分かるのだ。

 しかしどうしてだろう?最初からこうだったのか、経年変化で補修したのか、ぶつけて割れたのか摩訶不思議である。






 ● PU座グリ


【図8】各PU下の座グリ深さはPUによって違っている

 これだけで1ストーリーが書けそうな、PU座グリの秘密である。

●レッドスペシャルのPU座グリ
 この部分は結構大変な解析が必要だったし、今でも完璧とは言えない。ネックがボディーに深く食い込んで設置される、ディープデチャッタブルなレッドスペシャルであるから、半分はネックの章で書くべきかと思うが、あえてボディーの章にまとめて書くこととする。

 レッドスペシャルのPU配置はボディー(半分はネック)を座ぐって納まるエリアを作っている。ピックガードにPUが固定されるストラトなどと違って、レッドスペシャルはボディーにダイレクトにネジ留めされるため、ストラトほど深い座グリではない。さらに3つのPUもブリッジに近いほど高くなるため、座グリの深さもPUごとに違っている。ネック/ミドルPUはディープデタッチャブルなネックのため、ボディーとネック両方に座グリされている。一方ブリッジPUはボディーのみの座グリだ。

●判明したいびつなPU座グリのわけ
 さて問題はこの座グリ形状である。現状PU(TriSonic)にぴったり合っているとは言い難い。なぜか試行錯誤の後のような、いびつな形状である。そしてもう一つ。この座繰り中央部に2つの接点として利用しているようなナットが埋め込まれている。そしてそこからはワイヤが引き出されている。最初このナット+ワイヤーはスプリングなどを介してPUのグランドを取っているのかと思った。しかしグランドなどケースに半田付して直接取ればいい。なぜだろう? そしてその答えは古い1枚の写真から判明した。

 レッドスペシャルが作られたときは別のPUがついていた!

が答えである。それはブライアンがまだ高校生くらいで、髪が短くポマードでべったりしていて、超ガリガリ君で、完成直後のレッドスペシャルを弾いている写真が証明している。この写真ではレッドスペシャルのヘッドには「BHM」レターがある。お父さんのブライアン・ハロルド・メイである。ブライアンが本当にお父さん好きだったんだなぁ。その時に持っているレッドスペシャルはトレモロアームがまさにBurnsやBMG、ストラトのように直接トレモロベースに入っている。そしてPUはレッドスペシャルの意匠で重要な6孔「TriSonic」ではなく、3孔で、かつ上下幅のあるちょっと不格好なPUがついていたのだ。これを見た瞬間、座グリがいびつだったのは、このPUに合わせて座グった後に、TriSonicに換装し新座グリとしたからだと確信した。

 そして後に書くが、ピックガードのPU周りの隙間や、それを隠すためのPUサラウンドの存在からも合点がいく。レッドスペシャル作成時の古い写真ではいびつじゃない、きれいな旧PU形状の座グリが見える。

●不思議なナット  さらに上記のナットを利用したアース取り?というのも、ブライアン親子が先駆的な取り組みをしていた結果であろう。PU出力をこのナットを「接点」とする構造で取り出していたのだ。レッドスペシャルはそのボディ深くに食い込んだディープデタッチャブルネック構造であるため、ネックを外したりするときには、合わせてPUも外さなければならない。ここを合理化するために接点形状を志向したのではないか? でも接点って結構信頼性が低いので、この構造はお蔵入りになったのだろう。ワンオフであるからにして、実験的に行ったものが、そのまま残っておりチョー面白い!




【図9】リアPUの座グリは深い。アース部材?もモデリングしてみた。

●ブリッジPU座グリが?
 さてネックPUとミドルPUの座グリは、旧PUとの関係で納得ができる。しかし訳が分からないのはブリッジPU座グリだ。このPUはブリッジに近いということあり弦振動が少なく、出力を稼ぐためか弦に非常に近く配置されている。なので本来PU座グリはほんの浅いものでよい。よいのだが、実際は旧PUサイズでめちゃくちゃ深い座グリが掘ってある。なぜだろう? 旧PUとて深くする意味はない。現状はこの深い座グリ部にゴム片(茶目っ気出して”ラバーソウルって言っているらしい)が埋め込まれている。そしてあまりに深い座繰りなので、ネック/ミドルPUの側溝型配線ラインとは違い、トンネル形状で右チャンバー部にワイヤが引き出されている。ここで1点わからないのは、ネック/ミドルPUの旧接点はナットを利用していたのに、ブリッジPUのそれはパイプの輪切りみたいなもので作られている点である。なぜだろう?

 旧PUと新TriSonicの設置場所
 普通に考えると、3つのPUは等間隔で配置される。しかしレッドスペシャルの場合、急PUの位置と新PUの位置がずれている。ブリッジPUとミドルPUは現在収まっている位置よりも中央側に寄っていた形跡がある。






 ● バインダー


【図10】CAD図でエッジを立てるとちょっと違和感があったりするが。

 諸説あったパインダーの寸法であるが、幅2mm、深さ4mmということにした。今まで神であったのレッドスペシャルの正面拡大写真は、いつぞやのライブパンフレットに載ったものらしいが、その写真は白背景とバインダーが同化してエッジ部が分かりづらい。巷で呼ばれている「レスぺ暴露本」では黒背景で、めちゃくちゃきれいな写真であるので参考になるのである。
 バインダーとして唯一異形なのが、ボディーとネックのジョイント部、ネックヒール裏にあるバインダーだ。このバインダーはリア周囲のバインダーと一体ではなく、別ピースのようである。もしかしたら一体賀だったけど、割れたのかもしれないが・・・











■■■ トレモロ関連 ■■■

 ● トレモロ基本構造

 最も一般的なトレモロシステムは図11に示すストラトキャスターのシンクロナイズドタイプだろう。アームダウンをするときにはボディー裏のスプリングが伸びる構造である。テンション調整はスプリングの数とスプリングフックを留めている木ねじーの締め付け具合でスプリング長を変えるシステムだ。一方レッドスペシャルの場合は、図12のようにストラトのそれとは逆で、スプリングを圧縮する方向で行なっている。


【図11】シンクロナイズドトレモロ。アームダウンでスプリングが伸びる方向。

【図12】レッドスペシャルトレモロ。アームダウンでスプリングが縮む方向。


 そしてそのテンション調整は、スプリングを固定しているボルト(パンサーのバルブスプリングね)を回転させてスプリングの圧縮長を変えることで行なう。トレモロユニットの支点として「ナイフエッジ」なる鉄プレートの一部エッジをナイフ状に加工したものをボディー内部(インナーアッパー/オークコア)に仕込み、上からトップ板で封印)に埋め込んでる。なのでナイフエッジに何か起こった場合は、接着されている表面薄板をはがさなくてはならない。これは大変だ。

 またストラトのようにブリッジと一体化したユニットではなく、稼動は弦エンド部材(アームベースと命名)であり、ブリッジ駒には弦を滑らせるべくローラーが設置されている。


【図13】表面薄板をはいだ状態でのレッドスペシャルトレモロ構造。

【図14】表面薄板とPGをナイフエッジが見えるようにカットしてみた。





 ● ナイフエッジプレート

 レッドスペシャルではトップ薄板を貼った後では見ることのできない「未開の領域」がいくつかある。このナイフエッジ周辺はそのさえたる場所である。しかしレッドスペシャル作成時の古写真から、ナイフエッジプレート自体の大きさや留め方はおおよそ想像できた。 トレモロチャンバーも前回のモデリングからの違いが大きな箇所である。前回は開口部の半月形状のままくりぬいていると思ったが実は違った。内部は台形風の広大な空間があったのだ。フライラーさんの改修時の写真を見てそれらしい感じはしていた。していたが「内部は半月状!」という思いが強すぎて、見えているものも否定していた。思い込みの良くない傾向である。

 またインナーロア部はアーミング用のスプリング部位だけを逃げる格好になっている。二つのスプリング間にも逃げがあるか無いか?が微妙なところだが、今回はスプリング間も逃げている形状とした。


【図15】こんなに広い空間があったとは・・・

【図16】開口部と内部空間の比較ができるように透視図にしてみた。





 ● ボルトリテーナー

 レッドスペシャルのトレモロユニットの構造上、スプリングを保持しているボルトをボディー側のどこかに固定しなくてはならない。当初ブロック状の鉄材にボルト用のタップを切ったものをトレモロチャンバーの壁面にスクリュー留めしているのかと考えていた(図20)。しかしこのブロックをトレモロチャンバーの壁に固定するのに難儀しそうだし、弦のテンションが全部かかるこの部位をそんなやわな構造でよいのか?と疑問であった。そして調査を進めた結果として、インナーアッパーのオークコア(ナイフエッジの下)にブロック(ボルトリテーナーと命名)を埋め込んでいるという説に傾いた(図21)。これならがっちり保持されるだろう。

 このボルトリテーナーはナイフエッジの下に位置するために、X線透過ではナイフエッジにマスキングされて形状の把握が出来ない。なので推定形状である。


【図20】もともとこういう構造かな?と思っていた。ナイフエッジは見やすいようにカットした。

【図21】リテーナーはボディー内部に埋め込まれていると結論付けた。




 ● トレモロチャンバー

 トレモロチャンバーも前回のモデリングからの違いが大きな箇所である。前回は開口部の半月形状のままくりぬいていると思ったが実は違った。内部は台形風の広大な空間があったのだ。フライラーさんの改修時の写真を見てそれらしい感じはしていた。していたが「内部は半月状!」という思いが強すぎて、見えているものも否定していた。思い込みの良くない傾向である。

 またインナーロア部はアーミング用のスプリング部位だけを逃げる格好になっている。二つのスプリング間にも逃げがあるか無いか?が微妙なところだが、今回はスプリング間も逃げている形状とした。


【図15】こんなに広い空間があったとは・・・

【図16】開口部と内部空間の比較ができるように透視図にしてみた。





 ● トレモロテンション調整用アクセスホール


【図17】ボディー周辺まではあらかじめ溝を切ってある。最後のひとなめだけドリルでちょちょいと。

 トレモロのテンション調整は先にも書いたように、スプリングを固定しているボルトを締めて調整する。つまりボルトを回せなければ調整が出来ないのである。当初この調整は六角ボルトの頭をラジオペンチとかでまわすのかなぁ?と思っていた。が、ボディーエンドストラップピン横の「謎の孔」、いわゆるアクセスホールの存在を見つけてから、長いツールをこの孔から差込み、ボルトの頭(十字かマイナスか六角レンチかは分からない)を回すということが分かった。これはいかにも工学的なやり方で、「ブライアンだなぁ」と関心したのだった。がボディーに孔をあけなくてはならず、普通の人はそこで躊躇してしまいそうだが、ブライアン親子はそれをいとわなかったのだ。

 前回構造を推測したとき、トレモロチャンバーは開口形状(半月状)のままで座ぐっていると思ったので、アクセスホールが超長くなる ⇒ アッパー/ロアのボディーにあらかじめアクセスホールとしての溝を切っておく・・・と考えた。しかしトレモロチャンバー内部が開口部より大きいのなら、ほんの短い孔をあけるだけでスクリュー頭にたどり着く。そしてボディーを完成させた後でアクセスホールを開けることが可能である。多分そうしただろう。


【図18】昔はこんな構造でアクセスホール作っているのかな?と思ったが・・・

【図19】実際インナーロアーにはアクセスホールが存在しない(インナーアッパーにあり)。






 ● アームベース


【図22】なぜか本体部は黒塗装?がされている。

【図23】なぜかアーム用のタップ?は左右両側に切ってある。何ゆえ? 本体エッジ(アープ用タップの周辺形状)も表裏でシンメトリーじゃなかったり・・・

 弦のテールエンドである。またトレモロアームは最終的にはこのアームベースを動かすのだが、アームが直接このアームベースに取り付けられているのではない。アームは一度真鍮のスリーブで受けて、そのスリーブがアームベースにねじ留め?されている。ちなみにこのスリーブを固定するべく上から袋ナットで留めているが、この袋ナットが真鍮なのだ。こんなのどこで売っているんだ?

 このアームベース、当初はカクカクエッジなのかと思ったが、X線透過で両サイドエッジが丸まっていることが分かった。きれいなシンメトリーじゃないのだが・・・。さらに内部のメインブロックに当たることろの色が黒だ。塗装したのか?なぜに?

 またアームSAが入る孔も両サイドに開けられている。これはちょっと「?」である。左利き対応??? ブライアンがジミヘンにあこがれていたから、と言ううわさもある。





 ● アーム


【図24】ぶらんぶらんしないのはスプリングワッシャーで抑えているからだが、これがいい感じ。

 レッドスペシャルのアームが編み棒を利用したっていう話は有名である。

 形状としては折れ曲がりが2ヶ所である。前回のモデリングでは平面的に折り曲げたが、それはモデリングがほんのちょっと面倒だったからである。それを海外の掲示板で指摘されていたのが悔しい・・・。なので今回は十分な調査のもと、自信たっぷりでモデリングした。



 ● ブリッジ


【図25】このブリッジがレッドスペシャルのいい意匠のひとつだと思う。

 レッドスペシャルのブリッジは以下の点に特徴がある。

 ・トレモロ操作での弦移動が出来るための「ローラータイプ」
 ・各弦に対して独立したブリッジ駒
 ・オクターブチューニングは固定した溝にローラーを移動する


【図26】ローラーの形状は適当。

 レッドスペシャルはストラトのようなストリングエンド一体型のブリッジではなく、レスポール系の独立型である。しかしトレモロ構造に対応したブリッジであるため、弦が引っかからないように「ローラーブリッジ」となっている。オクターブチューニングを行なうときは、そのローラーをブリッジに切ってある5本の各溝位置に入れ替えることで実施する。実際は1〜5弦は中央溝、6弦はひとつブリッジ側でほぼ固定されているようだ。つまりオクターブチューニングに対するアナログ的な調整は出来ない構造だ。

 ちなみにこのローラーは弦で押さえつけられているだけの構造であり、演奏状態で弦が切れると大変らしい(ローラーが散らばってしまう)。ローディーがステージ上を探しまわったとか書かれていた記事を読んだことがあるが、真相はいかに?(ちなみに私の改造Burnsはしっくり収まっており、簡単には抜けないぞ)。



【図27】ブリッジ形状を決めるためにデフォルメして書いたもの。

 そのブリッジであるが、一体型ではなく各弦に対応したブリッジ駒を6個並べたものである。そして弦の高さ調整もこのブリッジ自体で決まってくる。個々の弦別に高さ調整が出来るのか否か、右の図でブリッジ高さ方向の考察を行なおう。

 オールドレディーでブリッジの斜めから撮った写真は見たことが無いのだが、レプリカモデルをいろいろ見るとブリッジ上部には各駒の高さ差がある。なのでTYPE-1は却下。次にハイトが違う各駒+駒トップからローラー溝が一定値で掘ってある構造。うん、これにほぼ近い。だけどローラー逃げ深さ(L1-L2)が駒によって違うのはちょっと無いだろうと却下。次は駒寸法は全部同じにして、シム厚さで高さを変える作戦。これはよさそうに感じる。だけどどうも違うっぽい。

 結果的に落ち着いたのは、TYPE-4である。TYPE-2に近い。駒を上基準で見たときに各駒の形状が同じになるものだ。









■■■ ピックガード関係 ■■■

 ● ピックガード


【図28】必要なものは全部ボディーについている、というのを示したかった図だ。

 レッドスペシャルのピックガードの機能は、例えれば91年までのマクラーレンのマシンと同じである。といってもさっぱり分からないであろう。簡単に言えば、PU、スライドSW、ボリュームなどの部品はボディー(モノコック)に直接取り付けられており、ピックガード(カウル)には一切部品が取り付けられていない、ということだ。ボリュームもボディーに直接取り付けられて、延長シャフトを使ってボディー表面に引き出している凝りようだ。

 この構造はピックガードが文字通り「ビックガード」としてしか機能していないのである。すこぶるシンプルな構造で、かつピックガード表面に余計なスクリューが出てこないという美しさもある。ブライアンらしい考えである。しかし後から取り付けるピックガードは、ボディーに先に取り付けられているPUやスライドスイッチ、ボリュームなどとシビアな位置合わせが必要である。そこが欠点といえば欠点であるが、ブライアンならそんなのお構いなしだったのであろう。まあワンオフモデルだからどうでもなるけど・・・でもPUだけはそれを避けて「PUサラウンド」なる化粧パーツでごまかしている。

 ちなみにストラトはご存知の通りすぺてピックガードに部品を載せている。楽だよね。そしてBurnsもストラトに同じであるなのでPG表面にスクリューがあふれていて、ぜんぜん美しくないのだ。


【図29】BurnsのPG Assy。PUとSWを留めているスクリューを水色にしてみたが、ちょっと見にくいか。

【図30】裏は全くストラトっぽい。




【図31】PGのPUライン(水色)センターとPUサラウンド(赤)を見るとオフセットしているのが分かる。

 PUサラウンドで隠れてしまって分からなかったが、ピックガードのPUシェイプの抜き形状はPUよりも広い形になっている。さらにPGからオフセットされている。もともとのPG位置が今とは違うところにあったのか?まあそういう隙間とかがあってもそれを隠せるのがPUサラウンド(エスカッション)のいいところである。




【図32】左がBurns、右がOld lady。


【図33】Aが島、BがSWプレートが乗る「座」。

 レッドスペシャルのピックガード固定スクリューは図11右側に示すように「6個」と、ちょっと少なめである。これは、3mmという厚さからくる剛性の高さに起因しているのだと思う。実際3mmのアクリル板はとても安心感がある。これほどの厚みのピックガードをもったギターはなかなかお目にかかれないぞ。ちなみに左側はBurnsのPG固定のスクリューは10個もある。PGも塩ビでペラペラである。まさにストラトっぽい。

 しかしレッドスペシャルのPG留めスクリュー。実は普通に考えてるとちょっとはまる。それは図の緑矢印のスクリュー部位である。レストア時のストリップ写真を見ると図のような特徴的な形状の場所があるのがわかる。一段落ちた場所Bはスイッチプレートの「すわり」だろうとすぐに判断できる。そして中央の「出っ張り島」Aは、普通にすごく普通に考えると緑矢印の位置のPGスクリューを留める場所って思うだろう。

 しかしこれがトラップであった。レッドスペシャルの画像から見ると図11/緑矢印部のスクリューはリアPUセンターラインより少しだけ下に位置するのが分かる。しかしだ、図13の丸部はどうみてもブリッジより下のラインなのである。これは悩んだ。そしてレッドスペシャルの国内最大BBSで質問をしてみた。すると「スイッチプレートに孔がありそこに留めている」との教えを受けた。いいねBBS。ということで、位置は分かったが、なぜこの島があるのか?はいまだに謎である。唯一考えられるのは、ブライアンがピックガードの孔を開けるときに、本当はこの島の部分に開けるはずだったのを間違えてしまった、という説である。こればかりはブライアンに聞かないと分からないだろう。

 と前回書いたのだったが、冒頭のインナーアッパー/ロアをスクリュー留めしている事実が分かってから、この「島」はそのスクリューのためであることがわかって、非常にすっきりした。ではPG留めのスクリューは?というと、SWプレートの変な場所に位置している。行き当たりばったり感が高いのはブライアンっぽくないなぁ。

 ネットで知り合ったコナンさんからX線写真でブリッジPU左にある金属風陰はなんでしょう?と疑問を持ちかけられた。最初はピックガードに貼られた銅箔テープか何かか?と思ってあまり気にしていなかったが、フライヤーさんの写真開示第2弾にあったピックガードの裏側写真をつぶさに見て、とりあえずわかった。言い方が微妙であるが、X線写真の陰に相当する部分のピックガード裏側に、陰と同じサイズで1mm弱のフライス加工が入っていた。ここに何か金属パーツがあったことが想像されるが、それが何のためにあって、なぜ今はないのか?それはブライアンのみが知るである。




【図34】緑の矢印の部分が疑惑の孔。

 ちなみにこの疑惑スクリューの近辺のピックガードに丸い10mmくらいの孔が開いて知るのは、このページを探し当てた方は当然ご存知のことだと思う。初期には孔が開いていただけであるが、後期はそこに黒いテープが貼られていた。このテープがいかにも「アレ」な感じであり、神経質なブライアンとは思えないくらいの「アレ」なのである。昔何かで読んだときには「トレブルブースター回路」を内蔵する計画の名残と書いてあった。真相はよく分からないが、今回はこの孔も再現してみた。しかしまた疑問である。黒目隠しテープがはがれた画像もあるが、○孔の下にはボディーの赤が存在する。しかしどう見ても構造的にここはボディー表面ではない。PG裏から赤いマホガニー化粧版を貼ったのかもしれない。







 ● ブリッジ下ピース


【図35】ピックガードだけで外れる図。ブリッジ下には分割PGが残るのだ。

 PGだけで取りはずせるのがレッドスペシャルの特徴だ、とか書いておきながら、当初のモデリングは「ブリッジ」をはずさないとPGが外れない構造だった。なんとも中途半端だなぁ・・・と思ってモデリングしていた。

 しかしやはりカラクリがあったのだった。オールドレディーの画像を穴の開くほど眺めたとき、ブリッジ付近にPGの割れ?を発見した。さらに改修時の写真に、PGは外れてストリップ状態なのだがブリッジの下に黒いPG破片らしきものが残っているのに気がついた。それを先ほどの「割れ?」と合わせて考えると、ああやっぱりそうなのね、となった。ブリッジ部の下の部分だけはPGを別ピースにしているのだ。そうすれば本当にPGだけが外れる状態になるのだ。

 疑問が解けたときのビールは美味い!



 ● PUサラウンド

 普通に考えればピックガードと同じ素材(アクリル)だと思うし、当然私もそう思っていたが、大分年季の入ったオールドレディーの写真を見たときに違和感を感じた。もうボロボロなのである。ボロボロを通り越して一部消失している部分もある。いくら6ペンスコインが当たるからといって、ああいう形状でボロボロになるのか? という意味で、アクリルじゃない可能性が高い。厚みは2mmだと思ったが、それより薄い可能性もある。











■■■ 電装系 ■■■

 ● スライドSW


【図36】珍しい足のスライドスイッチ。とんがった「つば」部は手加工か?

 普通に考えてスライドスイッチ(以下スライドSW)は図に示すような形で、電気小僧だった自分もこれ以外の形は見たことがない。なので当然も初期のモデリングでもそうしていた。

 事情が変わったのはX線透過写真を見た時だった。ひとつは、普通垂直に出ているだろうラグ端子が横に放射状に折れている。つまり「タコの八ちゃん」状態であった。垂直に出ている端子を無理やり曲げたのかと思ったが、長さが足りない感じもして、ああそういうスイッチもあるのね、と納得した。もう一つはSWをネジ留めするための「ツバ形状」である。これも普通は直角系であるが、これまた異形であった。SW間の機構的干渉のため、ブライアンが削ったのかな?とも思ったが、干渉で削るような形にはなっていない。まあそういうSWなのだろうとモデリングした。

 さらに事情が変わったのが、2014年春フライヤーさんのレストア写真の大量開示で、このスライドSWが外されていて、ゴロンと置いてあるのを見た時だ。あっ、タコの八ちゃん端子は端子だけが広がっているのではなく、ちゃんと底面の基板まで広がっているじゃん!と驚いた。まさに見たことないSWだ。ちなみにその後ネットで知り合いになったほにほにさんから、スイッチクラフト製とのタレこみをいただき、写真までいただいた。ああ、まさにその通りのSWじゃん。

 ちなみに細かいことだがスライドノブの本体内部にはなぜか穴が開いている。これも見たことないぞ。

 このスライドSWだが、最初は楽してアウトラインだけをモデリングしたのだが、その後ノブのギザギザまで描いたら、俄然リアリティーが出た。ああ楽しちゃいけないんだな、と心を改めたのだった。







 ● スイッチプレート(SWプレート)

 最初の頃、当然スライドSWはピックガードに固定されているのかと思った。が、ピックガードには固定のネジが出ていない。なのですぐさま内部で何らかの処理がされていると推測できた。その後フライヤーさんの写真で「SWプレート]の存在を知った。なるほど、こうしているのか。しかしすぐさまSWプレートにはスライドSWがどう取り付けられているのだろう?と悩むことになった。

で何が問題かといえば・・・

・SWプレートの下にスライドSWを設置
・SWプレートのSW用ネジ止め孔は上側で面取って、皿ネジでスイッチを締結
・するとSWプレートの厚さ分、スライドSWのノブがピックガードから下がってしまう
・ピックガードは3mm厚なので、もともとスイッチノブが出にくいとことに、さらに追い討ちをかけてノブが沈み込んでしまう

これでいいのか?


【図37】スイッチプレートはこんな風に収まるのだ。

【図38】普通に考えるとSWプレートの下に収まるのだが・・・(下はカットモデル)



【図39】こういう風にSWプレートの上にスイッチがあるのだった!

 しかし、レッドスペシャルの写真を観察してみても、それほどスイッチノブが沈み込んでいる風に見えない。もしかしたらノブの長いスイッチなのか? ここで大いに悩んだ。そんなとき楽器屋で「ブライアン・メイ本」を見つけガッツリ立ち読みしてて、「あっ」と声を上げ、すべてが分かった。「なんだ、スライドSWはスイッチプレートの”上”に取り付いているんじゃん。」である。こうすれば、ピックガード裏に直接スライドSWを取り付けたのと同じ高さ関係になるじゃん。つまりスイッチプレートの厚さ分(1.5mm として)スイッチノブがピックガードから高く出るのである。ブライアン親子は良く考えている。既成概念に囚われていないんだね。

 ちなみにスイッチが収まる部分もスイッチの大きさではなくそれより2倍近くも大きく開口されている。まあ見えないところだしどんな形状でも構わないのだ、と思っっていたが、これもタコ足大型SWのためだった。

 さらに、ボディーに留める部分のみ「曲げ加工」が入っていると思ったが、実は平板の曲がり防止にエッジ部に短い曲げを入れてたりして、工学親子の側面を垣間見たのだった。







 ● ワイヤー中継ピン


【図40】ピンがどう埋め込まれているかは定かではない。

 PUからのワイヤは普通に考えればそのままSW部に導かれるが、ブライアン親子はPU横に金属ピンを立てそこで中継させる方法を選んだ。8本のピンがボディーに埋め込まれている。







 ● PU寸法


【図41】わかりやすいように白黒にしてみた。左がBurnsについていたPU。

 ご存知の通り、レッドスペシャルのPUはトライソニックである。しかしまだまだ知識の少ない私はトライソニックはひとつだけと思っていた。すなわち本物のレッドスペシャル(オールドレディー)にも、Burnsのレッドスペシャルにも形状的には同じ寸法である思っていた。しかしBurnsに搭載されていたトライソニックをCAD化してレッドスペシャルに載せてみると、PUの取り付け耳部がボディーにもぐりこんでしまうのだ。PUのザグリが浅いのか?もっと深くすればいいのか?と、足に合わせて座グリを決めると、なんじゃこの深さはなってしまう。初期モデリングでは悶々としていたのだ。

 しかしこれも何気にWEBサーフィンをしていたら、本物トライソニックの取り付け部は足の深さ方向が3mm程度浅いことが判明した。ああ、これで解決だ! ちみにBurnsについていたPUはケース下部がリップ状に広がっているのだ・・・




【図42】わかりやすいように白黒にしてみた。

 ちなみにオールドレディーの場合はPUはボディーに直付けされている。そのためPUの高さ関係がボディーとネックの形状で決まってくるのだ。高さ(厚み)関係は今回のモデリングで最も苦手とするところである。ピックガードの厚みが3mm、PUサラウンディングの厚みが2mmとすれば、各PUがPUサラウンディングからどれだけ頭を出しているか?ということで高さ関係を推定することができる。見たところフロントPU側でPUの出っ張りが1mmくらいか?



 ● ボリューム保持

 フライヤーさん改修の写真でスイッチやボリュームが取り除かれた状態で、向かって右側、スイッチ類のあるほうのチャンバー部に銅箔テープでシールドしてあるものがある。これのちょうどボリュームが存在するあたりに丸い出っ張りがある。これも想像であるが、ボリュームの高さ方向位置が適切ではなくスペーサーが必要になった。手っ取り早くコインを置いてみたらピッタリだったので、「採用」って感じではないか?○形状の大きさもまさにコインであるし・・・

 それとあわせてもう一点。出力とトーンの各ボリュームは小さなプレートにつけられている。そのプレート自体をボディーに留めているようだ。この留め土台も立方体然とした木片を利用している。その木片の上にも先ほどのコインと同じくらいの厚みのスペーサーが置いてある。つまり何かの理由でボリューム自体を持ち上げたいので、ボリューム下部とプレート下部にスペーサーを置いたのではなかろうか? 何でだかは全く分からない。


【図43】ボリュームの取ってみると、こういう感じになっているっぽい。時代によって導電黒塗装や銅箔などでシールドされている。

【図44】透視図で見た同アングル図。ボリュームを束ねているプレート形状は大分いい加減である。











■■■ ネック系 ■■■

 ● ネック全体


【図45】こんな感じでネックが長いのがわかる図。

 レッドスペシャルのネックはデタッチャブルタイプである。デタッチャブルというと「ストラト」なのだが、ストラトのようにボディーへの結合部はほんの少しだけオーバーラップするっていうんじゃない。レッドスペシャルはリアPU部分までネックがドドーンと伸びている。変形デタッチャブルといってもいいかもしれない。まるでネックだけで成立するスタインバーガーみたいである。


 さてレッドスペシャルのネック仕込み角は2度、ヘッドの折れ角は4度と言われている。こればっかりはどうやっても分からないのでサクッと信じることにした。2度とか46度と些細な寸法であるが、実際にCADで書くときはばっちり決めていないとモデリングが成立しない。つまり些細だから適当でいいじゃんとはならないのである。

 まず図461を見ていただこう。問題を明示的にするため、フォルムをわざとデフォルメして書いている。図はレッドスペシャルマニアの方なら簡単に分かると思うが、水色がネックシェイプ、オレンジがフィンガーボード、赤がボディーである。問題はXY平面(正面図)でわかるネックの幅方向に広がりに関するものと、YZ平面(側面図)で分かるネック厚み方向に関するものである。

そして以下の項目に頭を痛めた。

 A:ネックヘッド部折れ形状(ZY 4度)
 B:ヘッド部形状(XY ネック本体からのシェイプがナット部以降も引き継がれるのか?)
 C:ネックのボディー埋め込みの角度変更部位・形状(ZY)
 D:ネックのボディーへの埋め込み部形状(XY)


【図46】ネックの形状推定図。大分デフォルメあり。






 ● ネック/ヘッド部形状


【図47】折れ部分が分かるようにうまくアングルを調整して・・・

 上記A/Bに関してである。

 まずはAのヘッド部折れ形状であるが、以前は悶々をしていたのだが決定的な写真を見つけた。どこか屋外でのライブの画像なのだが、光の当たり具合がちょうどいい感じで、折れ部分がはっきりを分かる画像だった。これであっさり図のZY-2シェイプであることが判明した。ちなみにBurnsはナット部から曲がり始めているZY-1の形状である。

 続いてBのシェイプに関して。これはあまり深く考えることなく XY-2形状であると結論つけた。まあ普通に考えるとそうなるだろう。



 ● ネック/インボディー部形状

 C部形状に関してはZY-1、D部形状はXY-2とした。


【図48】不レットボードエンドR部とPUザグリの関係がポイントである。

【図49】ネックがボディーに収まる図。




 ● スケール


【図50】ストラト(648mmスケール)との比較

 レッドスペシャルのスケールは長身のブライアンからはちょっと意外であるが、ギターの中でもショートスケールな609mmである。さらに008といわれている弦やネックやブリッジの浅い折れ角も勘案すると、弦はゆるゆるである。それがブライアンサウンドの一翼をになっているかもしれない。

 ギターは弦楽器であり、その音程/音階と弦長などは数学的に決まるのである。そしてネック上のフレット間隔は絶対的幾何学寸法で規定されるため、写真から「実長さ」を導くための基準にはもってこいなのである。この609mmスケールが分かれば各フレットの位置が計算で算出可能だ。0フレットとブリッジ間609mmを17.817で割った値34.24mmが0-1フレット間距離である。次は609mmから34.24mmを引いた値をまた17.817で割った32.32mmが1-2フレット間距離となる。




 ● トラスロッド


【図51】まあこんな感じで埋め込まれているのだろう。

 今回はトラスロッドのモデリングにも挑戦してみた。トラスロッドは湾曲した状態でネックに仕込まれているのが普通らしいが、どうやらレッドスペシャルには直線棒状態で組み込まれているらしい。さらにトラスロットを回したことすらない、という記事を見たような。では、そのトラスロッド、ネックにどう仕込んでいるか? ネックの裏側には加工痕がない。なので、図のようにフレッドボード側に切り込みを入れて、ロッドを仕込んだ後に長尺の木片で埋めているのだろう。

 それを確信したのは、トラスロッドカバーをはずした状態のネックヘッドの写真があって、それをよ〜く観察したとき、この埋め長尺木片に相当するところの色が微妙に違って見えたからだ。こういう見逃してしまいそうなところに真実を見つけると非常にうれしい。



【図52】ネック固定用のボルトにトラスロッドが引っ掛けられている図。トンネル貫通?のためについてしまったの溝?

 レッドスペシャルの場合、トラスロッドの調整はヘッド側で締め込むタイプになる。つまりボディー側はネックに固定されている必要がある。この固定方法が少し面白い。

 レッドスペシャルのネックはM10くらいのまさに「ボルト」でボディーに締結されている。このボルトにトラスロッドを引っ掛けているのだ。当然ボディーやネックにはトラスロッドを逃げるために溝が掘られている。くわえて、ネックのヒール部はトラスロッドを入れ込むためトンネル状の加工が必要だ。どうやらここは試行錯誤した感じで、ネックのボディー端側から長いドリルを入れ込んだ形跡が見られる。違うかもしれないが・・・




 ● トラスロッドカバー+ナット

 ネックヘッド部の折れ曲がりがナット部からではなく、もう少し先の方からと分かった時点でトラスロッドカバーに対する疑問が発生した。曲がり部にモロにかかる部分であり、リジットなロッドカバーは同取り付けられているのだろうか?と言うことである。これは今でもわからない。なのでカバー自体が変形しヘッドにぴったりついているわけではない、とした。

 さらにナットにもある仕組みが隠されていた。トラスロッドカバーのスクリュー留めが1ヶ所であるのは写真を見れば分かるのだが、上記のように曲がりにかかるプレートを1点で留めるとなると、ナット側で壮大な隙間が発生してしまう。実はそれを緩和する作戦がナットに仕込まれていた。つまりナットの下側にトラスロットカバーが入り込む隙間を設けていた。つまりトラスロットカバーの上側はスクリューで、下側はナットで押さえ込まれている。なのでトラスロッドカバーが少し湾曲した状態が維持されるのであろう。


【図53】下側のは普通に曲げないでトラスロッドカバーがつくとこんなですよ、という図。

【図54】ナットの下にトラスロッドカバーの収まる場所があったりした。



 ● フィンガーボード

 レッドスペシャルのフィンガーボードは塗装仕上げなのであった。これはびっくりだった。まあストラトのメイプル指板なども塗装仕上げであるが、ローズ(黒)系はそのままっていうのが自分の中の常識であった。しかしこのピカピカピアノブラックのフィンガーボードがレッドスペシャルの意匠として際立たせていることは事実である。実際Burnsなどは未塗装(実は塗装してある事実はBurns解析のところでのべる)であるため、やはりそれっぽく見えないのだ。逆に言えば塗装しただけで、いきなりそれっぽく見える。

 ドットインレイ(ポジションマーク)は母親からもらったパールをスライスしたって言うのは有名な話である。がどうやってスライスしたのか?は分からない。またフレットボードサイドのポジションマークがちょっと曲者である。85年の写真ではサイドポジションマークが無いのだが、93年の写真ではサイドポジションマークがついている。フライヤーさんの改修でつけられたのだろうが、今回のモデリングはなるべくオールドオリジナル形状としたかったため、サイドポジションマークはなしでいくことにする。

 12フレット、24フレットにはポジションマークが3個つく。よく話題にされるのは、このポジションマークの間隔が結構狭いよね、というものだ。確かに狭い。でもそれがレッドスペシャルの意匠なのである。そしてもうひとつ言われるのは、BurnsやBMGのレプリカはなぜにこの特徴的なポジションマーク間隔になっていないのか?ってことだ。良くあるのは完全コピーをしないためにわざわざ変えている、っていうやつだが、既に他のところが違いすぎるのでそれはなさそう。Burnsは結構いい加減っていう説もあるので、それが真相かもしれない。




 ● ペグ

 オールドレディーは当初相当しょぼいペグがついていた。79年の日本ライブバックステージの写真を見てみると、ちょっと唖然とする。でもこのヘッド部の「広々とした感じ」がレッドスペシャルの意匠なのであった。

 なので久しぶりにレッドスペシャルに興味を持ち、調べ始めて違和感を持ったのがこのヘッド部のいかにも一般的な「感じ」なのであった。クイーンの中後期はペグもリプレースされていて、ヘッド表側にごく普通のペグよろしくスペーサーと6角ナットがある。しかしそれが違和感の元凶であった。初期のレッドスペシャルはヘッド表にペグのスペーサーやナットが存在していないことがその要因なのである。




■■■ その他 ■■■

 実はコンプリートのつもりで書いたのだが、まだまだ分からないところがある。大所を以下に記しておくが、解明された方がいたらぜひ教えて欲しいと思う。ブライアンからメールが・・・来るわけ無いか。

●不明点1
 X線透過写真を見るとナイフエッジプレートの下に何やらPU形状と同じような影が見えるがなんだかさっぱり分からない。影からみて金属であることは推測できるが・・・。もしかしたらボルトを受ける「ボルトリテーナー」がそういう形なのかもしれない。う〜ん・・・

●不明点2
 X線透過写真で形状を推定できたボディー骨組みであるが、実はその形状だとミドルPUのねじ留めが「空中」になってしまう。まさかミドルPUを固定していないってことは無いと思うのだが・・・



■■■ フライヤーさんのレッドスペシャル改修の写真と同アングルのCAD図 ■■■

 多分このページをご覧いただいている方々はフライヤーさんの改修写真などを見られていると思う。今回はちょっと茶目っ気を出して、それと同じアングルのCAD図を載せてみよう。