■TOP > 俺の沖縄 > その17~手負い

■■■ 手負い ■■■

 沖縄3日目、プレ沖縄は前日で終わり、この日からが本格的な沖縄である。何を持って本格的とするのかは定かではないが、今回の沖縄は瀬底のホテルでどんちゃん騒ぎをしようというので始まった企画であり、やっぱり瀬底島が主役である。空はどんよりであるが雨は降らなさそうである。9時に出発だ。


■昨日よりはなんとなく明るい感じで期待大。奥に見える前日に行ったばかりの古宇利島に「おお、あの島ね」とやたら知っている感を醸し出した。

■結局どデカい登山用リュックにはスニーカーが入らず、しょうがなくハンドルにかけて走ることにした。結構邪魔なんだよね。


 さて、やたら写真を撮りたいたちであるので、前日の海へのスロープ上部に立ち写真を撮ろうとした。そのせつな・・・

「ズルっ、ドン!」

 と、海や雨で、もともとあっただろうコケっぽいヌルヌル成分が本領を発揮した。そしてことはそこでは終わらない。ドン!のあとに・・・

「ズズズズズズズズズ----」

と滑るのが止まらないのだ。動摩擦係数は当然ながら静止摩擦係数より小さい。つまり動いたら止まらないのである。海までは10m弱ということろ。「知らない間に」無意識に体をひねって、うつ伏せ方向になっていた。そして指で斜面をつかみ膝で摩擦力を増やそうとしている自分がいた。何か生死に関することを話すときに「その瞬間がとても長く感じた」ということを聞くが、まさにそうだった。滑っている最中にあれこれいろいろなことが頭を巡った。

 海の中で浮かぶのか?沈んで死んじゃうのか?誰か見ていないか?恥ずかしいなぁ、滑りって止まらないんだ、カバンの中のカメラはダメになっちゃうなぁ・・・などなど。

 そして必死の思いむなしく、ついに海面まで滑ってきた。あっ足が海に入った。ああ、俺は・・・と思った時、やはり物理の法則に助けられた。そう水の浮力・抵抗力によって滑りが止まった。下半身は水に入ったがその状態で何とかとどまった。急いで脇にある手すりにまで体を伸ばした。

「助かった・・・」

これほど怖い思いをしたことはそうそうない、という体験だった。ショルダーバッグはこすれてコケまみれな緑色に染まったが、幸い中に水は入らなかった。ボロボロの体で手すりをつかまり上まで戻った。これを誰かに見られていたら大ごとになっていて、そんな恥ずかしいところはさらせない。なんていう変に繕う自分がいた。それを知ってか知らずか、もう一組泊まっていた夫婦がちょうどそのタイミングで出てきて、車で出て行った。

 とりあえず立ち上がり落ち着くと、アドレナリンは急速に枯渇して手負いな体を自覚できるようになった。つまり痛い。まず指が痛いので見てみたら、ぎょっとする状態だった。爪がはがれている。もともと爪は切り詰めておくのが好きなので、旅行の前にきれいに切っておいた。その爪が結構はがれているじゃん。いかに必死だったかというのが良く分かった。そしてこの後数日は指が使い物にならなかった。拷問で爪をはがすというのがあるが、それがどれだけ効果があるかということを身をもって体験できた。さらに両ひざから血が流れている。表面の皮が広くむけて、何やら白いものが見えている。骨?膝の皮は薄いからねぇ。


■いわゆる「事件現場」。多分滑り落ちたのは俺だけではないはず。

■今見てもあの時の「チョー痛い!」ってのが思い出されるぜ。



 とりあえず、バンドエイドを出して指にまいた。膝は早く血を乾かしかさぶたにするためにそのままにしておいた。なぜか爪が剥がれたのは左手だけだった。幸いにも右手は無傷。これは助かった。後日談になるが、その後1週間ほどは左指が何かに触れると大電流が流れたように激痛だった。1か月くらいでやっとピアノを弾いても平気に、2か月たってやっと復活、ギターも弾けるようになった。爪もきれいに直った。人間の治癒力は素晴らしい。ちなみにこの事故から3か月半たった今、その爪を見てみると、根元から半分くらいのところが段になっている。これって負傷したときのストレスの痕なんだろうなぁ。

 膝は負傷数日後に5センチほどの巨大なかさぶたになった。そしてやはり2か月後にだいぶ縮小化した10円玉大のかさぶたがパリッと何かの拍子にはがれた。小さい頃は自分ではがしていつまでもかさぶたなままだったが、大人は抑制が効くのだ。でも膝の負傷したところは今でも紫色になっている。

 15分くらい思案していた。どうしよう? 瀬底島のホテルのチェックインは16時なので、道中あれこれ寄り道しながら楽しもうと思っていた。でも一気にその気が失せた。気が失せたというよりも、身体がそれを拒んだ感じである。

 そして宿を出発、海そばの砂利道を走り、崖の急坂を押し、バス通りに出た。この当たりでちょっとビビってきた。ばい菌やらが入って、足を切断、手を切断なんてことにならないよな・・・と。病院行ったほうがいいかな? でも朝の9時に知らない地で病院に行くのもちょっと面倒である。そうだ、消毒だけしておこう。前日バスを降りた今帰仁商工会議所に行ってみたら、開いていて入口に消毒用のアルコールがあった。職員の人に言ってちょっと消毒させてもらった、持っていたティッシュが何枚も血染めになった。これ誰かに見られたら大騒ぎだよな、ってくらい。

 そして瀬底島に向かう。バス通りではなく、並行している裏道をゆっくり行くことにした。


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