マクラーレンのパドックに戻った俺達は、ロックタイトのテーブルで談笑タイムになった。そこには朝はいなかった、俺と同世代くらいの青年が座っていた。M事業部長は
「こちらはホンダの方なんですよ。ホンダさんは来期BARと組んで参戦しますが、そのエンジンを担当されるようですよ。Sさんです。」
なんとすごい人が来たもんだ。Sさんは今回はプライベートでグランプリに来たらしいが、BARの所に行くと上司がいるので近づかないようにしているらしい。しかしどんなツテでロックタイトのパス仕入れたのだろう? 明日からエンジンとシャーシのフィッテングでイギリスのBAR本拠地まで行くそうである。かっちょええぞ。かっちょよすぎだ。
Sさんは今回のF1プロジェクトにかかわるまでは、アコードとか市販車のエンジンをやっていたらしい。やはりコストダウンばっかで大変だったそうである。でも車ってビデオと違って価格は下がらないよねぇ。 まあ、こんな機会もないので、今まで疑問に思っていた事を聞いてみた。
「あのぉ、F1のエンジンってきれいですけど、塗装しているんですか?鋳肌に見えるのもあるけど黒とかゴールドとかもありますよね・・・」
「あっ、あれは塗装しているんですよ。鋳肌面のままだと腐食するんですよ」
「最近のエンジンってやっぱラジエーター小さくするために、冷却水温高くても回るように設計しているんですよね。で、冷却水の圧力高めて沸点上げてるんですよね」
「そーなんですよ」
「コーナーとかでエンジンって”ババババ、パーン”とかってすごい音がしますよね。あれなんでなんですか?」
「あれはシリンダー内で完全に燃焼できなかったガスが、排気管の中で爆発しているんですよ。これでエンジンのマネージメントシステムの差が如実に分かるんですよ。マクラーレンとかフェラーリは本当によくエンジンを制御してますね。下位のチームはもう悲しいくらいに”バラバラ”って音ですよ」
「来年組むBARはどうですか?」
「ちょっとだめですねぇ、エンジンも上手く制御できていないみたいだし・・・」
と楽しい話をたくさん聞かせてもらった。やっぱり、最前線に接している人の話は面白い。「おーい、ビデオマニア君、俺がAV業界の最前線の面白い話、してあげるぜ〜ぃ」。また俺と行動を共にしている藤沢さんはさすが某社のエンジン屋さんだけあって、Sさんとはディープな話ができているようだ。
左から、某社技術部長氏(いい顔色になってる)、M事業部長、代理店社長氏、本田のエンジニアSさん、藤沢さん