■TOP > マクラーレン パドック潜入記

■■■ 第6話【鈴鹿入り】 ■■■

名古屋で下車したのは12年ぶりだ。

 あれは会社に入って初めての泊まり出張だった。津のホテルに泊まって、次の日に津の工場、続いて松坂の工場、時間が余ったので伊勢神宮参りをしたのだった。実はその出張の半年前に、俺は紀伊半島一人旅をしていたのだ。これは”半期で300時間以上の残業をすると3連休をするべし”という会社のシステムを使った旅だった。しかし3月のウィークデー、紀伊半島にはなんと人がいなかったことか。どこに行っても独占状態に近いもの。宿はとらなくて車中泊、布団を持ちこんで後部シート倒し、トランクスルーでの就寝だった。伊勢地区はその後も結婚してからかみさんと再度一周したりと、何かと縁があるのだ。

 んで一人旅の紀伊半島一周。白浜では早朝になにくわぬ顔してホテルに入って風呂入ったり、奈良では何だか人が歩いている方についていったら偶然にも春日大社のお水取りだったり、大仏殿に開門と同時に入って大仏独占したり、法隆寺に向かって走っていたら無線で話していた人が「法隆寺で会いましょう」と言って一人でしんみり浸りたいところを話かけられながらの観賞になっちゃったり、日本一長い釣り橋(当時)に行くためにひたすら山の中に入って行ったり、英虞湾の遊覧船一人で乗ったり、鳥羽水族館で初めて見たラッコをずーっと見ていたり、串本でVHS-Cのテープを買いに入った電気屋の親父が高価なS-VHS-Cのテープ買わせたがったり、太市で行った岬先で眼下の岩場に何とか下りて歩いていたら大きな”なまこ”が何匹もいて (@_@) になったり、南部(みなべ)駅に行って南部(なんぶ)さんのお土産に硬券(ってこう言う字でいいんだっけ?)の入場券買ったり、友達に高校時代コピー(採譜)させられた谷山浩子の歌に出てくる歌詞の通りに振舞ってみたり(紀勢本線の南部駅の次に各駅停車する人気のない無人駅・岩代駅のホームの古いベンチに座ってみたり)、そりゃあそりゃあ楽しかった。

けど、やっぱり誰でもいいから横で「すげーなー」と感激を分かり合いたいもんだ、と思ったね。

 と、回想シーンは終わって、名古屋駅に戻る。子供のために500系新幹線をデジカメに撮っておこうと、最後までホームでふんばっていた。なもんで、改札を出るときは一人さびしくの出札だった。
「あれ?改札の横に近鉄線へのショートカット用改札があるではないか(横浜駅の京急〜JRみたいなの)」
けど、切符ないから正規ルートで出札する。
「う〜ん、どこへ行けばいいのだろう? 近鉄は・・・こっちだ」

あるくあるくあるくあるくあるくあるくあるくあるくあるくあるく

 なんだ、すごく歩くぞ、こんなんじゃサーキットでヘトヘトになっちまうぞ。んで、さらにひたすら歩いて地下に入って、やっとついた近鉄の出発ホーム。特急やら急行やら普通やらどれに乗れば良いやら・・・  早朝に家で見たインターネットでは「特急に乗るべし」と書いてあった。結局目の前に止まっているやつは満席だとかで、次発8時10分の特急券を買った。全席指定なのだ。

 白子まで約40分は超快適で、混み混みの電車を想像していた俺としてはちょっとすかされた感じ。ゲロゲロに混んでいたほうが感じ出るのに。近くには真っ赤なフェラーリTシャツを着ているゲルマン親父や、いかにもジャーナリストですって感じのフォリナーとかがうじゃうじゃいる。若い女の娘もいる。スポーツ新聞(トーチュー)を手にしている姿は異様だなぁ。やっぱりカラー新聞はおっさんの代名詞よ。

 しかし近鉄沿線はぜんぜん眺めが良くないなぁ。まあ観光に来ているわけじゃないから。

 白子に着いた(白子は”しろこ”と読むのね。”しらこ”じゃないんだ)。心臓をバコバコ言わせて電車を下りたがここもそれほど混んでいない。なんかえらい拍子抜けだ。駅つったって、超国際的イベント・F1の乗降りに使われているのが不思議なくらいの質素さ。でもそのアンバランスがいかにも面白い。

 駅を出てからは、人の波に乗ったまま自動的にバス乗り場へ向かう。本当に質素な商店街でバスを待つ。本当にびっくりするくらい質素なんだぞ。信じてくれよぉ、アニキィ。

 バスは次から次へとやってくるので15分くらいで乗ることができた。380円なり。座れもしたぞ。F1は三重交通にとっても一世一代(1年1回とも言う)の大イベントなので、持てるバスを全部つぎ込んでいる感じ。オンボロバスから観光バスまでいろいろ来る、来る。当然観光バスに乗りたいわけであるが、そこは警察に7万円没収される運のない俺の事、お決まりのオンボロバスであった。

 10年ぶりくらいにバスに乗ったが、降りるときに押す”ブザー”がいかにもレトロなやつだった。

 ところで、俺は小学生のとき学区の端に住んでいたので学校までバスで通っていたのだ。6歳のいたいけな子供がバスに一人で乗るわけ。一応上級生と一緒だったが、登校初日にやってしまった。乗るときに手に持っていたかばんが、バスを降りたときには手になかった。これは今でもハッキリ覚えているのだ。幼心にだいぶ焦ったものだった。息子がもうその年になったなんて信じられないものだなぁ。

 一方、サーキット行きのバスの中には女の子が多い。結構多い。7年前にF1見に来た時はこれほどいなかったような気がするが。みんなラブラブラブラブ、俺もそんな時期があったような・・・いつ頃だったかなぁ?

 サーキットはまだか、うずうずうずうず・・・



←前の話 ↑ 目次へ 次の話→