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■■■ 第52話【決勝直前】 ■■■

 さて、午前中と同じピットボックスに向かった俺達を待っていたのは、最終確認走行まで残すところ40分になっているというにもかかわらず、ぜんぜんガラガラのピットボックスであった。めちゃくちゃ拍子抜けだ。みんな興味ないのかなぁ? 当然俺は誰もいない最前列に喜びを隠すことなく陣取った。午前中の学習により、残ったフィルム10数本はすべて乳白色の円筒ケースから出して、ポケットに忍ばせておいた。これでフィルム交換もスムーズに出来るぞ。

 正確なタイムスケジュールはよく分からないが、決勝スタートまでの1時間はテレビで見ていているのでは分からない面白いものだった。2時の決勝スタートの1時間前からいろいろと準備が整ってくるのだ。
スターティンググリッドには各国の国旗を持ったお姉さま方がスタンバッている。



ピットロードもこんな具合に忙しくなって来た。



 下はスターティング・グリッドにむかうフェラーリのメカニック。こういう補機に並々ならぬ関心を示してしまう俺なのだ。ドライバーはみんな鍛えているのでスマートなのだが、メカニックはみんなレーシングスーツが似合わないねぇ。俺様のようだ。スーツと言えば、先日事情があって俺が息子をピアノ教室に連れていったとき先生と息子でこんな会話がかわされた。

先生:「ほがらくん、このしるしは音と音をつなげる役目なの。なんて名前でしょう、ヒント!海の魚の名前・・・」
息子:「コイ!」
先生:「それは川の魚じゃない?」
先生:「”結ぶ”って言う意味よ。”タイ”って言います。お父さんが会社に行くときに付けているでしょ。”ネクタイ”。あれもつなぐからなのね。お父さんネクタイしてるよね。」
息子:「うん・・・」

 おいおい、俺は会社にネクタイなんてしていかないぞ。スーツなんてものも縁がない。なんで”うん”なんて言ってんだ。息子よ。彼は幼稚園の父の日でも、先生の「みんな出席をとりますから、呼ばれたらお父さんの事をみんなが呼んであげてね」の問いに対して、いつもは”お父さん”と呼んでいるのに、なぜだか急に”パパ”とか呼びおった。あの時もあせったぞ。息子よ、なぜに人に流されるのじゃ。

 ピットロードを通ってグリッド上に機材を運び込むメカニック。窒素ガスボンベが見えるけど、これはエンジン始動用スターターに使うものだ。他にラジエーターの強制冷却用のクーラーとかあるのが分かるね。メカニックはそれほど太っているわけではないのだろうけど、ドライバーがスリムな分、目立ってしまうな。



 BBSの赤マークが入ったホイールといえばフェラーリだ。よく見えないかもしれないが左下に見える発電機には”HONDA”と書いてある。



マクラーレンはコース上を通って機材を運んでいるぞ。



 ピットボックスでの観戦は、両脇に某社技術部長殿と四国の代理店社長殿を伴っての観戦だった。藤沢さんとは離れてしまった。某社技術部長殿はちょっとお酒が入っていい顔色になっている。四国の代理店社長殿は全くF1を知らないらしく、いろいろとおせっかいを焼いてしまった。教えフェチなのかな、俺? 3人の会話を簡単に再現すると、

俺:「あそこにいるのが、日本でもCMに出ているジャン・アレジですよ。ゴクミの旦那ですよ」
技術部長氏:「ゴクミって知ってる?」
代理店社長氏:「う〜ん、知らない・・・」
俺:「あ〜、あの人が我等が招待されているマクラーレンの宿敵であるフェラーリ監督ジャン・トッドですよ」
俺:「あそこにいるのが川井さんっていって、F1のピットレポーターです。鈴木保奈美を結婚したんですけど、この前別れましたね。今はとんねるずの石橋貴明の奥さんになってますよ」
俺:「あの人は、本田宗一郎の息子で、”無限”っていうエンジンビルダーの社長なんですよ」

おせっかいな俺。



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