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■■■ 第63話【史上最大の決断】 ■■■

 

俺のおなかがちょっと変だ。

 食べ慣れない食事なんぞしたせいだろうか?それとも過去からわずらっている”リンゴ系の物を食べたり飲んだりしたあとに急な運動をすると心臓が苦しくなるやつ”とか、”結婚式でデザートに出てくるメロンを食べると決まって気持ち悪くなる”と関係があるのか?(あるわけないだろ!>俺)

 がんばって、気合を入れて我慢をしていた。電車に乗って会社に行く途中にトイレに行きたくなった時と同じく、この症状は決して引きはしないものだ。何だか変なヨガをしているように体をくねくねさせて紛らわせるのだが、陣痛の周期のように引いては押し寄せ、押しては引いての繰り返しだった。ちなみに陣痛を経験したことなんてないけどね。そんな俺の怪しい動きを見た後ろの若い女性は変に思った事だろう。しかし、もう落ち着いて見れない状況だ。でもここでトイレに駆け込んだら、この最前列の特等席をみすみす明け渡すことになる。

 「そんなのいやいや、いやだぁ」
・・・しかし背に腹はかえられん。レースも中盤を過ぎてピットインも終わっているしぃ・・・。決心だ。

 「あのここで見ますか?」と、後ろの女性になんともやさしい声をかけてしまった。
「えっ?いいんですか?」
「トイレに・・・(フェードアウト)・・・」
と、俺はカメラ等の機材を一式残して一目散にトイレに駆け込んだのだった。



 トイレの中に響き渡るエンジン音は俺のおなかを刺激した。



 「さてと、どうやって戻るかなぁ?」
と、いろいろ考えながら元の場所に戻った。あれ?空けていてくれている。なみだ涙であった。しかし最前列に陣取っている人でも結構途中で帰ったりしているようで、最前列も入れ替わりがあったのだった。もったいないである。

 さあ、2時にスタートしたレースも佳境に入ってきた。そんな折り、M事業部長が俺の肩越しからこう囁いた。

 「佐藤さん、4時に帰りのバスが出発しますので遅れないよう、よろしくお願いします」

 (「グフッ、4時かぁ。レース後にもいろいろと面白そうなことがありそうなんだよなぁ」)と、諸々のイベントが脳裏を横切った。表彰台でのシャンパンファイトするドライバーは、すなわち99年のワールドチャンピオンになるわけだ。見てみたい!また西コースがオープンされるので、レース直後の生々しいゴムの臭いやタイヤかすバリバリのところを歩いてみたい。それに最大の関心事である99年シーズンがすべて終了したことによる、各チームの放出品ゲットである。そのために大枚持ってきたのだから・・・しかし楽に帰ることができるのも魅力である。
しかし、結局「はい」と返事をして、よい子になった。

 それほど順位の入れ替わりがあるわけでなく、レース自体は単調なものだった。そんな時下り坂のホームストレートをよろよろと惰性で走っているマシンが。うっ、緑色のヘルメットが印象的な高木虎之助だ。



 ピットロードの出口でマシンから降りたので、戻るの楽でいいみたい。



 と言っていたら、もう一台とろとろ走っているミナルディーのバドエル。プスプス煙が出ていると思ったら



 ボーンとエンジンブロー。すごい白煙じゃ。生ブローは迫力満点だ。どうでもいいけど、ザウバーのシンプルな作戦本部がノスタルジックだ。





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