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■■■ レッドスペシャル/オールドレディーのモデリングと考察(モデリングver3) ■■■

 永遠に終わらないと思われる解析であるが、現段階の「第5次解析」をもとに行った「モデリングVer3」をここでは披露したいと思う。これが決定版!と言えればよいのだが、決定版ではない。まだまだ「謎」は残っている。製作時の写真が大量に出てくるとか、ブライアンが細部を語るとか、断片的な事実をつなぎ合わせて推測するとか、そういうことが無いとこの先には進めない感じである。

 さてこのページ、昔の解析ページに上書きしてもよいが、「昔の解釈」はそれはそれで自分の推測の過程である。たまに見ると、ああ前はこんなふうに考えていたんだなぁ、と自分で楽しめるのだ。その解析過程はRed Special(Old Lady)の解析史として残しておくことにした。



■■■ 4世代あるレッドスペシャル ■■■

 レッドスペシャルはその製作過程にて、4つの世代があった。

 レッドスペシャル本発行で、X線画像公開と同じくらいの衝撃波が全世界を駆け抜けた。そう、完成された後には絶対見ることのできない部分が、製作途中写真として公開されたから。そのレッドスペシャル本にあった15歳のブライアンが抱えるソリッドな木材だけだけど、今に続くボディーシェイプやネックにつながる意匠が完成しているもの、これを「ソリッド形状確認モデル(第1世代)」と呼ぼう。

 そしてレッドスペシャル本の発行で、世のレッドスペシャル解析野郎を何人も打ちのめした写真、それはレッドスペシャルが今の構造になる前に、違う構造で検討・仮作成されていたという事実を白日の下にさらしたのだった。これを「初期試行錯誤時構造/モデル(第2世代)」と呼ぼう。

 この「初期試行錯誤時構造」はレッドスペシャルがアーミングの課題に独自の解釈で挑む、そのProject-Xばりのトライだったが、結果は失敗、その後大幅な設計変更を行った。この変更でボディー基本構造自体はほぼ現在の構造になったが、PUを含む電装系パーツなどなどが違うタイプを「最終構造/モデル(第3世代)」、そしてペグやノブ、PUなどのパーツ変更を行った「現状モデル(第4世代)」の全4世代だ。

 まずは構造的に現状モデルと大きく違う「初期試行錯誤時構造(第2世代)」のレッドスペシャルを見てみよう。これは現行のレッドスペシャルで謎だったり、何の意味があってこの構造?みたいなものの答えがあったりするのである。謎解きをしているようでめちゃくちゃ楽しい素材でもあるのだ。さあどうぞ。



■■■ 初期試行錯誤時レッドスペシャル ■■■

公開された写真

 まずは以下の写真とモデリングを見てほしい。これはレッドスペシャル本に載っていた、初期試行錯誤時の写真である。これは世の中のレッドスペシャルファンに一大興奮を提供した「X線写真」と同じくらい衝撃的な写真であった。これにより昼寝していたレッドスペシャル研究家が一気に覚醒した。

 下に示す写真を模したCADモデリングは、もともと遊び半分で行ったものだが、やってみると以外にもいろいろと構造の理解を助けてくれるものであった。それはパーツ単品でのモデリングでは分からない、他の部品と並べた時のスケール感の違いが如実に分かることであったり、だまし絵写真みたいになっているところだったりである。


【img.1】レッドスペシャル本のP25をモデリングしてみた。並べることで個々のパーツの大きさに違和感を感じられる。

【img.2】同じくP28をモデリング。ネック固定ボルトや潜水艦部品などは明らかに寸法が違う。


 さてこの写真から分かった事実を以下に列記する。

1.2層なブロックボード

 今までも何となく分かっていたが、サイド部を見てトップとボトムのブロックボードが同じ厚みで張りあわされていることが「事実」として分かった。そしてサイド部の模様からこれが安価な「ブロックボード(集成材)」であることも分かった。

2.ボトムブロックボードの中心にオーク

 これも何となく分かっていたことであるが、画像からオーク板が50mmくらいネック側に引き出されていることが分かる。この部分をまだ接着する前の本当のプロト状態である。ちなみにトップ側オークはまだ存在していない。
3.ネックのトラスロッドはフィンガーボード側から挿入

 これもヘッドのトラスロッドカバーを外したところの画像から想像はついたが、明示的にトラスロッドの蓋として木片が見えている。

4.トップとボトムの固定

 X線写真で想像がついたが、トップとボトムのブロックボードが木ネジで固定されている(もしかしたら接着併用?)ことが分かった。他の部位の解析を進めるとネジ留めを非常に多様しているのが分かる。接着はしたら終わり・・・なので、この気持ちはよーく分かるのだが、経時変化で緩まないか?もし緩んだら締め直す手段がない、というところに信頼性をどう考えたか?という疑問がわくのである。


【img.3】いわゆる潜水艦部品。どこに使われる部品なんだろう? なんでこんな部品を知っていたのだろう?

5.見知らぬ部品!!

 これが最も衝撃的な事実であった。訳の分からない部品がボディー上に鎮座している。当初これを見た時、何かの「重り」かと思い真剣に考えなかった。しかしトップボディーに開口している形状とこの部品の底面形状は同じ見える(実はここに落とし穴がある)。自然に考えてこの部品が収まるだろうと思われた。

 さてこの見知らぬ部品、それはブライアンによれば「潜水艦」の部品であるらしい。収まる場所から考えて、このローラ―部をストリングスエンドに活用つもりだったと考えられる。今の構造でいうアームベースである。しかしその潜水艦部品によるアーミング構想は、実際にはうまく機能しなかったようだ。すぐさま現在のトレモロ構造に変更した。

 初期試行錯誤時構造を理解することは、レッドスペシャルを理解するうえで避けては通れないと思う。以下にあれこれ考えてみよう。



 ● ボディー構造

 レッドスペシャルで聞く逸話として「100年使った暖炉の木を使ったネック」というのがある。こういうのを聞くと「材」にとても気を使ったんだろうなぁ?と思うのは普通のことだろう。事実私もずーっと「ボディーはどんなすごい木なのかなあぁ?」と思っていた。しかし以前から噂されていたように、さらにフライヤーさんの改修で見え隠れする生木の部分やレッドスペシャル本書かれていたことから、めちゃくちゃヘタレな「ブロックボード(日本では集成材と呼ばれる)」であることが分かって、逆に驚いた。でもそれもなんかブライアン親子っぽくて好感が持てるけどね。


【img.4】大きくは2層、3パーツで構成されているボディー。
マホガニー突板第1層0.5mm
トップブロックボード第2層19mm
ボトムブロックボード+オークコア第3層19mm
マホガニー突板第4層0.5mm

 まずはボディーがどう構成されているか。ここは以前の推測から大きく変わったところである。上で書いたように、ボディーのベースは超安価なブロックボード(集成材)である。これがボディー表側(トップ側)とボディー裏側(ボトム側)の2層に分割され、貼りあわせである。ここが木ネジだけで留められているのか、接着併用しているのかは定かではない。そしてこのブロックボードのギター構造上重要な部位のみに硬いオーク材がはめ込まれている。ただしそのオーク材もこの時点ではまだボトム側のみである。最終形ではブロックボード表面には1mm以下のマホガニー突板(化粧板)が貼られているが、この試行錯誤時には当然まだマホガニーは貼られていない。

 ということでボディーレイヤーは正確には4層だが、マホガニー突板を除けば単純な2層構造である。また以前より私のモデリングは「MKS単位系」で書いているが、実際のブライアン親子は「インチ系」で設計していたようだ。10を桁基準とするMKS単位系と、分数を基準とするインチ系、お互いにいいところ悪いところがあるけど、やはりインチ系はなじまない。今回はインチ系をあえて「mm」に丸めてモデリングしている。



 今回の第5次解析で結論つけた重要要素の一つが、このボディー構造ある。以前は骨骨なブロックボードの表裏に3mmオーク板を貼っていたと思っていた。しかし事実をつなぎ合わせ、かつ額に汗してレッドスペシャル本の英語を読み下した結果、最終的にはブロックボードのを表面部3mm(インチだと1/8インチ)を残しルーターで内部を掘り込み、チャンバー(空間)を作りたものと結論付けた。ちなみに、まだこの時点ではブロックボードに内部掘り込みはボディー向かって右(6弦側)にしか施されておらず、まだ骨骨にはなっていない。


【img.5】少し気を使って「透過図」にしてみた。。

【img.6】「掘り込み」であることが分かるかな。




ブロックボード

 ブロックボードはレッドスペシャルボディーの主材である。こんな木材がボディーに使われているとは夢にも思わなかった。フライヤーさんの改修時画像で見え隠れする木の目が何となく工業的に作られた材のように見えていたのは、当たりだったようだ。

 「ブロックボード」という言葉でググると、これがランバーコア材とも呼ばれていることが分かる。そしてその写真を見ると、まさに思っていたような構造の材なのであった。これは表裏にラワン単板、心材にファルタカ集成材という構成だ。ファルタカ集成材ってホームセンターでよく見る名前だが、植林木であるらしい。工業製品用に植えられたっていことなのだな。そしてそのファルタカ集成材の心材がいくつかのブロック状に分けて接着されているので「ブロックボード」と呼ばれているようだ。なるほど。各ブロックの分割寸法は分からない。もしかしたら1本の長尺ものかもしれない。


【img.7】ブロックボードはこんな感じ?

【img.8】ブロックというからにはこういう風になっているのでは?




初期トレモロ構想(ブライアン親子の会話再現)

 写真に写った潜水艦部品、これをつらつらと眺め、50年前のブライアン、父ハロルドがこんな会話をしたんじゃないか?と想像した。想像は楽しいね。小説家やシナリオライターの気持ちが分かる感じ。

●ブライアン「父さん、僕父さんと前に行ったジャンク屋でいいモノ見つけたよ。安かったから買ってきたんだ。これなら新しいギターのアーミングに使えそうなんだ。」

●ハロルド「ブライアン、お前もあの店行くようになったのか。あそこは面白いだろ。いろいろ見ているとココに使えそうとか思えてくるんだよな。で、これをどう使おうと思うんだい?」

●ブライアン「僕は買えないけど、新しいレスポールのテールピース(ラップ アラウンド テールピース)がこの部品に似ているんだよね。このローラーに孔をあけて、PU側から弦を通すんだ。そしてこのローラーを回して弦のテンションを変えることで、アーミングできるんじゃないかなぁ?」

●ハロルド「おお、ブライアン、お前はなかなかいいところに目を付けたな。でも弦のテンションに対するローラー部分の反力モーメントはどうするんだい?」

●ブライアン「そうだね、僕はトーションスプリングが使えないかと思っているんだ。これがどうにか組み込めれば面白そうなんだよね。」

●ハロルド「よしやってみよう。何事もやってみないといいも悪いも分からないからな。ダメだったらダメなところを直せばいいんだよ。」

さて、真相は如何に?

初期トレモロ構想を示唆していたX線画像

 潜水艦部品の事実を知ったとき、これがブライアン親子が廃品利用で考えた初期のトレモロ構造だったことが分かったのだが、実はこの事実を知る前に、この事実につながるある事実を発見していた。それはX線写真をつぶさに見ているときに発見した、正体不明の「丸形状な陰」である。

 陰が映っているということは、この部分になにがしかの物理的エッジがあることを示している。そしてこの陰を発見して以降、これがだなんだか全く分からなくて悶々としていたのだった。そういう「なぜ?」と分からないところがあるとモデリングが進まないわけで、こんな性格な何となく技術っぽい人は不幸である。そんなことさっと流せばいくらでも幸せになれるのに、でもそれができない人種は確実にいるのだ。そういう意味でこの「初期試行錯誤時」写真はその悶々とした心を開放してくれた第2の神写真である。その「丸な陰」は潜水艦部品が収まる掘り込み痕なのであった。


【img.9】丸形状の陰を赤丸でトレースしたのが右側。

【img.10】こう見ると収まるのがあからさまに分かる


 こうやってある事実に、他のちょっとした事実が加わることで、芋づる式にいろいろな疑問が解決するさまは、下手な推理小説を読むより断然面白い。レッドスペシャル研究者はそういうところが「かっぱえびせん」になっているのだと思う(ちなみに若い人は意味が分からないと思うが、かっぱえびせんの有名なCMで「♪やめられない、止まらない♪かっぱえびせん!」ってのがあったのだが、これがえらく脳内リフレインするフレーズなのだったのだ)。

 そして「X線画像にこの丸痕が映っている(残っている)という事実」は、つまり今のレッドスペシャルが、失敗や試行錯誤を繰り返しながら作り上げていったということの証拠にもなるのである。新しい構造に変更するときに、ボディーを作り直すのではなく、その唯一無二のボディーをどんどん改造していったということだ。

 されにこの「陰」、私の中で嬉しい事につながった。この「陰」の真意を有名なクイーンのBBSで聞いたところ、とある超レスぺマニアのギタリストさんからメールが入って、1年近くもレスぺ解析の激論を交わしている。これがなんとも楽しいのであるよ。同じ方向を向いた人との会話はめちゃくちゃ楽しいね。



初期トレモロ構想あれこれ


【img.11】右にある緑のラインがイチョウ形に見えて、そこから抜け出せなかった

イチョウ型?

 余談だがこの初期検討時写真で最初全く理解できないことがあった。それは「潜水艦部品が収まるボトムボディー(オークコア部分)にまで達している掘り込みが「イチョウの葉っぱ」形状に見えること。なぜこんな形状?しばらくの間これが全く分からなくて悶々としていた(しょっちゅう悶々としているなぁ)。しかしこの部分をCADで描いて部品を写真同様に配置してカメラ位置を調整した時、夜中にも関わらず「うぉぉぉぉ!」と奇声を発した。

 分かってみれば簡単なことである。トップブロックボードの丸掘り込みエッジ部が引き出されたボトムオークコアの掘り込みを一部隠して、こう見えていたのだった。「だまし絵」とまでは言わないが、諧調が狭い(いわゆる暗い部位とか)写真だと面が上なのか下なのかひっくり返って見えることがしばしばあるが、これもそんなもののひとつであろう。


掘り込み寸法

 この潜水艦部品を収めるためにボディーを彫り込んだことが明確に分かった。そしてCADに向いモデリングした。当然潜水艦部品の底面形状に合わせて掘り込み、潜水艦部品が気持ちよく「すっ」と収まるようになっているだろう。そのために潜水艦部品の両耳に当たる部分(以下画像の【A】部)をちゃんと考えて彫り込んであるじゃん、やるなブライアン親子と思っていた。しかし潜水艦部品をモデリングしていると、なにか違和感がある。潜水艦部品の耳に当たる部分よりも掘り込み形状の耳は幅が狭くないか? と。

 下の写真で見ると、潜水艦部品の耳幅【B】はどう見ても掘り込みの【A】よりも広く見える。それよりもむしろローラーを留めている平頭スクリューの頭径【C】 つまりこの掘り込み部の耳逃げ形状は、【C】のローラースクリューの逃げということになる。潜水艦部品の底面形状で気持ちよく鎮座することはあきらめよう。いい方向に考えれば、掘り込み内径は潜水艦部品外形よりも広いので、ポジショニングに多少のフレキシビリティーがあるってことで・・・


【img.12】潜水艦部品の各部寸法

【img.13】潜水艦部品のローラー部は半分程度ボディーに埋まるようだ




ボディーチャンバー形状

 レッドスペシャルの良く語られる特徴の一つに「セミフォローボディー」がある。ボディー内に空洞を設けるのであるが、初期試行錯誤時は現在の空洞より小さいものであったと思われる。ボディー向って右側(1弦側)の空洞は開放されているので「見ることができる」ためそれが分かる。しかしボディー向かって左側(6弦側)の空洞は確認できないので想像である。

 これは右の空洞と同じだろうというのと、 があると思って描いている。ただしこの時期のチャンバーはまだ小さめであっただろうと推測している。この後の「初期型プロト」改修時にトップブロックボードをガリガリザグッて骨骨にしたのはあとで紹介しよう。




廃材活用なレッドスペシャルから考えること

 こうやって見ていくと、レッドスペシャル作成には多くの「廃材」が活用されていることが分かる。この方針は私と全く同じ。今でこそさくっとモノを買ったりするが、小さいころはそうではなかった。裕福でもない家庭に育つと、「あるもの、安いもので何とか作ってしまえ!という能力が身につく。これは人間の能力として結構重要ではないか?と思っている。それは「考える」ということだ。今の世の中、すべてがプッシュ型で「与えられる」のが当たり前になった。考えなくて済む時代。しかし考えないと物事への対応能力が著しく退化する。本来なら、便利な機器で楽になり時間の余裕が出来たら、それを能力開発にあてるべきと思うが、なかなかそうならない。便利な世の中が人間の能力をどんどん奪っているようで、日々不安である。




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