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■■■ モデリングの課題 ■■■

 ずーっと心の隅に引っかかっていたことが、ひょっとしたことで開花しちゃうことがある。それがまさに今回のCAD化であった。やろうやろうと思っていたのだが、ギターアウトラインのトレースが出来なくて次のステップに進めず、やきもきする日々が続いていたのだ。課題は以下であった。

 
項目ズレの内容
ボディーの外形トレース - 寸法で規定できないボディー外形はCAD/グラフィックソフトでベクトルデータ(例えばベジェ曲線)で書かなければならない
- そのためには画像をベース(下絵)にしてアウトラインをトレースできるようなCADが必要
- PUやコントロール系の座繰り、裏面のトレモロユニット座繰りなどを、写真からのトレースにするか実測を基にするか
使用CAD - イラストレータのパスがCADに取り込めるのが分かったが、イラストレーターがいまいち得意でない
- どのCADを使うのかがピリッと決まらない(上記下絵を使えるCADがあるのか?)
トレースのベースになる写真の補正 - 写真で撮影したものをベースにした場合、パースがついてしまい正確なトレースができない
- 厚みがある部分に関しては撮影距離による影響で撮影中心軸から離れるほど厚み分のズレが生じるので注意が必要
原点設定 - CAD化のギター原点をどこにするか?
寸法 - Burnsの場合表面クリア塗装の塗膜が厚くどの部分をギターの寸法とするのか?
- 本物レッドスペシャル(オールドレディー)の場合、各部厚み方向の寸法は大半が「推測」になる


■■■ 型紙が使える3DCADを探せ! ■■■

 まずCADを決めなくてはならない。使えるCADとして以下がある。
- Rhinoceros
- Solid MX
- Solid Works
- One Space Designer

 使いやすさとか慣れとかもあるが、一番の選択肢は「型紙(写真)をベースにしたトレースが出来るかどうか」だ。上記のアプリはどれもそれが出来ないのであった。なので次なる作戦に出るしかない。悩みをデザイン部の友人に言ってみたら、「イラストレータがDXF形式でパスデータを吐き出せる」という情報を得た。やってみると確かにDXF形式のパスデータを出すことが出来た。よしコレで行こう。

 そしてイラストレータを立ち上げ、背面に写真を置きアウトラインをパスでトレース、DXF形式でパスデータを出力し、そのファイルをCADに読み込ませてみた。しかし・・・どのCADでも上手く読み込めない。読み込めるものもあるが形がいびつになってしまう。非常に高い壁にぶち当たってしまった。知り合いのラピットプロトタイプメーカーのCADマイスターさんに聞いたりネットで調べたのだが、ピリッとした解決策が見つからない。この状態が長らく続いたのだった。

 そんな時、RhinocerosのV4試用版を発見し何気にDLしてみた(V3は正式版で所有)。すると上記DXFファイルがきれいに読み込めるではないか。これはいい! 使うCADはRhinocerosV4に決定だ。お試し版は30回?しかファイルが保存できない。その30回を有効に使って(最悪OS再インストールという手段はある)まずはアウトラインのデータさえ作ってしまえば、あとはVer3で作業をすればいいのだ。

 そんなこんなでやっているとき、Rhinocerosのチュートリアルをみたら、な・な・ん・と、「ビュー|背景ビットマップ(下左図)」というのを使うと、直接画像を下絵にできるではないか。なんだなんだ、知らなかったぞ。Ver4だけの機能かと思ったらV3でもできた。今までの半年間はなんだったんだろう・・・。でもこれで一気に作業が進んだ。

 さらに今後の説明のこともあるので、xyzの各軸を定義しておこう。下の絵の通り、ボディー幅方向を「x軸」、ネック長方向を「y軸」、ボディー厚み方向を「z軸」とする。オールドレディーに関してはこのz軸方向が最大の鬼門であった。だって深さってどうやったって分からないのである!



 さてこのRhinoceros、20万程度(実売は13万くらい)のCADなのであるが非常に多機能で使いやすい。カスタマイズの余地がたくさんユーザーに与えられており、自分の手になじむように育てられるのだ。しかしメカCADを使い慣れた身としては、「サーフェースモデリング」という概念がいまいちなじめなかった。メカCADはだいたいにして「ソリッドモデリング」なのである。また自由曲線はベジェのようにすべてが連動するのではなく、次数に応じた制御点で管理されている(部分曲線の集まりで大きな曲線が構成されている)。何が面倒かというと、ある部分の曲線を修正すると隣接する曲線との接点であるノッチで曲率の連続性が崩れてしまうことである。これはちょっと使いにくい。まあこれもベジェに慣れちゃったからかもしれない。さらに困ったのは、パーツシェイプは「アイソカーブ」という概念で描かれるが、これが次数を少なくするとシェイプが現れなくなるし、次数を増やすと線だらけになるしと、使いにくい点である。つまり普通の図面形式にするのがすこぶる難しいのである。



■■■ ベース画像補正 ■■■

 写真の場合、大なり小なり画像は歪む。少しでも歪まないようにするためは、遠くから望遠レンズでボディー面との垂直度もばっちり出して撮影するのがよい(オールドレディーなどは自分で撮影さえできないけど)。補正が必要なのは以下の2点である、

 
調整ズレの内容補正
水平出し 撮影時のカメラとギターの垂直線ズレ(ギターのロール)  フレット上の3-4弦中央とブリッジセンターを結んだ直線をギターセンターとし、垂直線からのズレ角度分、画像を回転させる。
XYスケール調整 ギターのカメラからの傾き(ギターのヨー/ピッチ) - 特徴ある測定可能部位の x方向(ボディー最大幅とか)y方向(例えば24フレットとボディーテールエンドとか)の寸法を実物を画像で合わせる
- x/y実寸法と画像上の寸法を求め、その比率分で画像をリサイズする
- 注意するのはx方向とy方向は微妙に縮尺が変わるため、x/yの縮尺を同期させないことである
- またトレーサビリティーを考慮し300dpi程度に補間した
- 画像のスケールを実寸法に合うように再設定する

 画像を扱う場合の大きな注意点がある。それは「近くのものは大きく写る」ということである。特に撮影距離が短かいとそれが顕著になる。例えば下の写真を見てみよう。メトロノームの右側(本体)は40mmの奥行き、左側(蓋)は15mmの奥行きである。ご覧の通り遠くから撮影した画像(右)は、距離による寸法のズレは少ない。一方近くから撮影した画像(左)は距離による寸法のズレが大きい。つまり写真から外形をトレースするときは、同一平面に限るということである。





■■■ その他 ■■■

●オールドレディー参考図
 比較的正面から撮影してあり割とピクセル数の多い画像をインターネットで見つけてそれをマスターにした。しかしこれにしてもボディー正面から撮られていないのだが・・・ また各パーツ想像図が公開されていたので、それも参考にした。ただし明らかに間違っているところもあり、自分なりに照査・修正しなくてはならない。

●原点
 ボディーエリア内で幾何学的に位置が決まっている所ということで、24フレットを「x軸」とした。ちなみに19フレットがネックとボディーの接合線であるっぽい。「y軸」はネックセンターとブリッジセンターを結んだ線とした。しかしこの作業をしているときに、Burnsモデルは上記センター線がボディーセンターとはなっていないことが判明した。のちのちBurns改造ポイントのところで理由を考察するが、ボディー左右中心線をy軸にできないのはなんだか気持ち悪いがしょうがないね。

●写真トレースと実測
 Burnsの場合、直線基調の表裏トレモロユニット座繰りなどは、実測をしたものをCAD/写真上に切りのいい数字(0.5mm単位)で丸めることにした。スイッチキャビティーなどの自由曲線で彫られている場所は写真をベースにトレースすることにした。簡単に言えば、曲線のところは写真ベースのトレースで、直線基調のところは実測(写真も参考に)ということである。当たり前であるが、オールドレディーは写真を頼りにするしかない。

 構造ってのは、分かった気でいてもいざ絵を描いて(モデリングして)みると、実は分かってないところがとっても多い。しかしその悩みにしても、解決に至ったときの喜びは悩みの大きさに比例するものである。例えば、スイッチプレートの高さ(Z軸)方向の位置がずーっと疑問であった。これは後述しよう。

●ボディートレースのポイント
 イラストレータなりReinocerosなり下絵を基にボディーラインをトレースするときには、最外周をトレースするよりも「バインダーの内側」をトレースするほうが良い。何度もトレースを繰り返した結果から導かれた経験則である。最外周は左と右、もしくは上と下の光線の関係、さらにギター下にあるもの(写り)との関係、厚さの関係などにより正確な場所をトレースするための画像を撮影するのが難しい。つまりトレースする場所が分かりにくいということだ。これがバインダーとの境ならば

 ・コントラストがはっきりしていて、トレースするところが分かりやすい
 ・確実に平面上であるため、パースによる寸法の誤差が少ない

ボディー外周は、上で得られたトレースラインからバインダーの厚みだけ外周方向にオフセットしたラインとすればよいのである。




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